2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H02005
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
遊佐 斉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (10343865)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平尾 直久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (70374915)
藤久 裕司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90357913)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 構造相転移 / 巨大歪み / マントル鉱物 / ダイヤモンドアンビルセル / 高圧下その場観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、材料物性科学の観点から、巨大な歪みを強制的に加えることにより、相転移圧力の大幅な緩和や物性変化が起きること、さらには、今までにない特異な物質が合成されるなどの実験結果が相次いで報告されている。しかしながら、物性変化や相転移圧と巨大歪みの定量的相関については曖昧なままである。本研究では、①精密連続歪み場発生技術の確立、②放射光X線による逐次高速データ収集による高圧下巨大歪み状態の観察と応力場定量解析、③第一原理計算による異方的応力状態の再現と相転移圧力への影響の解明という、三位一体の取り組みをおこなっている。本年は、ダイヤモンドアンビルセルへ(DAC)の加圧の精密定量性を実現するためのDAC加圧への微動機構の開発をおこなうとともに、もう一つの技術的試みとして、高圧下の試料に加圧軸に垂直な方向から応力を加える機構をもったDACの開発をおこなった。また、歪み状態の観察を高速におこなうためには、高圧下放射光X線回折技術の安定的利用も不可欠となり、そのための各種高度化にも注力している。こうした技術の蓄積により、状態方程式決定のための圧力―体積データの高速取得が可能になり、非圧縮性である硬質窒化物・ホウ化物の体積弾性率の精密決定にも貢献している。また、高圧実験で見られた、マントル鉱物アナログ物質における非静水圧下での相転移圧力への影響について、第一原理計算で再現することも試みた。用いた計算手法(CASTEP)は、窒化物やホウ化物の構造や弾性率計算において良い一致を見ており信頼性はあるが、構造相転移においては、非静水圧性のモデル化に任意性が存在することも考えられるため、今後さらに検討が必要と思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高圧下で物質は多くの場合差応力が生じる非静水圧下におかれる。こうした、より現実的な圧力場(歪―応力場)を高圧実験で考慮した例は少数であり、その詳細を正確に観測・解析することは実験的に困難を伴う。そこで、技術的観点からそれらの効果を検証するための様々な試みをおこなっている。一つは、積層型ピエゾ素子を導入することで、DACのナノメートルレベルのストローク制御により、相転移圧の精密検出に成功した。それにより、マントル鉱物アナログ物質(MgF2)で、静水圧下と一軸圧縮下における相転移圧の差の検出をおこなった。対象としたのは、rutile-CaCl2型構造相転移である。放射光その場X線回折実験の結果、静水圧の場合は9 GPaであった転移圧が非静水圧下では8.3 GPa程度で転移することが確認されたことが確認された。もう一つの技術的試みとして、加圧軸方向およびそれと直交するラディアル方向に大きな開口角を有するDACを新規に設計開発した。これについては、来年度以降の研究で使用されることになる。なお、回転型機構を有するDACの開発も現在進行中である。一軸圧縮下における相転移の影響について、第一原理計算による検討も進めている。具体的には、実験をおこなったMgF2の非静水圧下での相転移圧力の低下を計算で再現することを試みた。静水圧下の計算では相転移圧力は7.5 GPaとなっが、b軸方向に差応力を1 GPaほどかけると仮定した場合、フッ素の変位位置から考えて、相転移圧力は9.0 GPaとなった。静水圧時に比べて。相転移は上昇する結果を示したが、実際の応力状態を再現できていない可能性も大きいことから、さらなる検討が必要であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に新規設計・開発した高圧下の試料に加圧軸に垂直な方向から応力を加える機構をもったDACを用いて、高圧下における巨大歪みの機械的発生を試みる。昨年の部品納入遅れのため、完成が遅れたリモート回転型駆動機構の開発を引き続きおこなう。これは、大型装置におけるHPT法(High-pressure torsion method)によるものである。製作および動作確認に試行錯誤を伴うことが予想されるが、本研究の根幹となるものであるため、十分な時間をかけておこなう。また、本装置を放射光施設に持ち込んでのX線回折実験となるが、SPring-8のスタッフである分担者とDAC加圧方式の選択を含め十分議論のうえ準備する。初年度に着手した、第一原理計算による応力場の相転移圧への効果について、応力軸の方向を多様に変化させた場合を考慮するなど、発展的に計算を展開する。理想的には、ラディアル回折実験で得られた応力状態から、遡って計算することが必要となるであろう。また、対象とする相転移について、より地球内部に想定されるもの(例えば、ポストペロブスカイト転移やオリビン-スピネル転移)を選択して、詳細な計算をおこなっていきたい。
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Research Products
(13 results)