2020 Fiscal Year Annual Research Report
マルチスケール計測による高機能ヘテロ構造材料の4次元損傷評価
Project/Area Number |
19H02024
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
菊池 将一 静岡大学, 工学部, 准教授 (80581579)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩田 太 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30262794)
藤井 朋之 静岡大学, 工学部, 准教授 (30377840)
中澤 謙太 静岡大学, 工学部, 助教 (50824520)
塩澤 大輝 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (60379336)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 金属疲労 / 粉末冶金 / 光計測 / 破壊力学 / 高輝度放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
各種金属材料の疲労特性に及ぼす周期ヘテロ構造制御の影響について検討を加えるため,ヘテロ構造材料の創製,疲労試験,疲労き裂伝ぱ試験,高輝度放射光による損傷評価を行った.まず粉末冶金技術を駆使し,結晶粒径の異なる周期ヘテロ構造材料(オーステナイト系ステンレス鋼,チタン合金,工業用純チタン)を創製した.さらに,元素濃度を周期的に制御した新たなヘテロ構造材料の作製にも成功した. 疲労試験を行った結果,結晶粒径の異なる周期ヘテロ構造材料は,均一組織材料と比較して高い疲労限度を呈した.なお,ヘテロ構造を有するチタン合金の場合,試験片の寸法によって疲労特性が変化する,いわゆる寸法効果が認められた.このような寸法効果は,比較材である均一組織材料では現れなかったことから,周期ヘテロ構造材特有の現象といえる.この要因について,ヘテロ構造の周期長さと曲げ応力勾配の関係から明らかにした. また,周期ヘテロ構造材料の損傷メカニズムに関する知見も得た.具体的には,独自に構築したその場疲労き裂進展観察システムを用いて表面観察を行い,疲労き裂がヘテロ構造内の粗大結晶粒組織を起点に発生することを明らかにした.この学術的知見をもとに,周期ヘテロ構造材料のさらなる疲労特性改善のためには,周期構造を維持したまま結晶粒を微細化することが有効との着想に至った.このような観点から,冷間圧延後に873Kの熱処理を施すことにより,微細粒から構成されるヘテロ構造チタンを創製した.加工熱処理を施すことにより工業用純チタンの疲労き裂発生抵抗は増大し,従来のヘテロ構造材料と比較して良好な疲労特性を呈することを明らかにした. また,高輝度放射光を用いることによりヘテロ構造材料のミスオリエンテーション変化挙動を調べ,マクロな降伏応力値より高い応力域において周期高強度相への損傷集中という特異な現象が生じることを明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り,種々の材料に対してヘテロ構造制御を達成しているのみならず,周期へテロ構造制御による材料の損傷挙動の変化を明らかにしている.さらに,周期へテロ構造材料の損傷を捉えるための光計測システムの構築にも着手しているため,本課題は「おおむね順調に進展している」といえる. 光計測システムについては,その場疲労き裂進展観察システムのみならず,放射光回折コントラストトモグラフィ(Diffraction contrast tomography: DCT)を用いてヘテロ構造材料のミスオリエンテーションの変化挙動を評価した.具体的には,ピエゾアクチュエータを用いた「その場引張試験機」をDCT測定の回転ステージ上に設置し,サンプルを360度回転させながら常に検出器で露光して0.04度回転するごとに画像を取得する条件のもと,ミスオリエンテーション変化の負荷応力依存性を調べた.その結果,引張過程においてヘテロ構造内のネットワーク状の微細結晶粒組織が優先的に損傷し,粗大結晶粒組織の損傷が抑制されることを明らかにした.このような優先損傷は,周期へテロ構造材料のマクロな降伏応力値より高い応力域において生じることを明らかにし,周期へテロ構造制御による特異な力学特性発現メカニズムを明らかにした.また,高輝度放射光施設(SPring-8)内に構築した光計測システムを改良し,「その場疲労試験システム」を新たに構築した. さらに,レーザー顕微鏡を用いた材料損傷挙動評価システムの構築にも着手している.現在は,必要物品の購入を完了し,システム系を組み立てる段階にある.今後は,疲労き裂の長さ・深さを連続的に観察できる本システムを確立し,き裂の先端に粗大結晶粒と微細結晶粒の両者が存在するヘテロ構造材料の局所的なき裂進展速度を算出する.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度と同様,ミクロ組織を周期的に制御した金属材料を作製する.その際,損傷メカニズム解明のために,高強度相と低強度相を入れ替えた「逆」周期へテロ構造制御材料の創製にも着手する. 高輝度放射光施設内に構築した「その場疲労試験システム」を用いて,ヘテロ構造材料におけるミスオリエンテーション変化挙動の負荷応力繰返し数依存性を調べる.具体的には,同一応力振幅条件のもと,所定の応力繰返し数において周期へテロ構造制御ステンレス鋼に対してDCT測定およびCTイメージングを行う.その際,繰返し応力による疲労き裂発生前後のミスオリエンテーションの変化(ミクロ損傷)をDCTによって捉え,かつ疲労き裂の発生位置(マクロ損傷)をCTや各種顕微鏡によって観察し,ミクロ損傷値とマクロ損傷誘発組織の関係を調べる.さらに,「その場引張試験機」と光計測システムにより取得したミスオリエンテーション値と比較することにより,繰返し応力により生じる材料損傷挙動と静的な損傷挙動の差異を把握する.とくに,粗大結晶粒組織および微細結晶粒組織における損傷値の差に着目し,組織ごとに計測される回折現象から結晶粒内のミスオリエンテーションの総和を算出する.この値は,結晶粒内の回折面の湾曲程度を評価するパラメータと考えられ,結晶の回折面における転位密度と対応するものである. さらに,現在構築中のレーザー顕微鏡を用いた観察システムによってin-situで疲労き裂の長さと深さを常時計測することにより,き裂形状の全容を非破壊かつ連続的に取得することを考えている.まずレーザースポットを2次元に掃引することにより疲労き裂の形状を捉え,現行の光学顕微鏡による表面観察との比較を行った後,き裂形状の3次元測定に着手する予定である. ヘテロ構造材料の損傷メカニズム解明を通して,学術的観点からヘテロ構造制御による材料多機能化指針の明確化が期待される.
|
Research Products
(19 results)