2020 Fiscal Year Annual Research Report
イオン注入による酸化物セラミックスへの生体活性付与と強度低下メカニズムの解明
Project/Area Number |
19H02030
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小林 訓史 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (80326016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生体活性 / 酸化物セラミックス / イオン注入 / 表面処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
体内における骨類似アパタイト形成は,生体環境とのイオン交換反応に依存しており,正に帯電した表面がOH-イオンを誘引し骨形成が進むことが明らかとなってきた.本研究では,ジルコニア系複合材料を対象とし,イオン注入法を用いて表面処理を行うことを検討してきた.これまでの研究でソースが気体であることから比較的注入しやすく実用化が容易であると考えられるAr+イオンを材料表面に注入することによりに正に帯電させる手法を開発した.本手法により生体活性を付与することには成功したが,材料の表面全体にわたる骨類似アパタイト層の形成は確認できず,生体活性が比較的低いことを確認した.このため新たにりん酸や水酸化ナトリウムを用いてジルコニア・ジルコニア表面のイオン交換を行い表面処理を進める手法を検討した.新たに開発した本手法により,材料表面全体にわたる骨類似アパタイトの形成が確認され,高生体活性を与えることに成功した.また,詳細なメカニズムはまだ不明であるが,水酸化ナトリウムよりもりん酸を用いた方が生体活性に優れていることが確認された. 新たに開発した表面処理プロセスにより,材料表面にどの程度の欠陥が発生し,それに伴う強度低下が生じるのかを確認するため,二軸曲げ試験を行った.ジルコニアにおいては表面処理に伴い,強度が10%程度低下したが,この低下度合いは水中での低温程度と同程度であり,実用上十分であることが確認された.一方で,アルミナ強化ジルコニアにおいては表面処理に伴う強度低下が生じず,X線回折結果より求めたジルコニア中の単斜晶率の計算結果から,アルミナ強化ジルコニアにおける高い相変態率が確認され,この相変態が強度保持に影響していることは示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたイオン注入法に加え,比較的簡単に材料表面におけるイオン交換反応が可能な溶液プロセスを開発した.本手法はりん酸や水酸化ナトリウムなどを用い,温度調整など行うだけのプロセスであり,社会への技術移転が容易であると考えられる.本手法により,イオン注入法では達成することができなかった試料表面にわたる大規模な骨類似アパタイト形成を可能とした.また,本表面処理プロセスに伴う強度の低下は,ジルコニアについて概ね10%程度,アルミナ強化ジルコニアにおいては強度低下なしという驚異的な結果が得られており,本手法の有効性が明らかとなった.一方で表面に形成された骨類似アパタイトはりん酸プロセスでは十分に結晶化しているものの,水酸化ナトリウムプロセスでは非晶質となっており,この点を改良する,もしくは,りん酸プロセスにのみ焦点を当てて詳細を検討する必要があると考えている. 現状,強度低下のメカニズムについては相変態の寄与が影響していることが明らかとなっているが,ベース材料の差異が相変態挙動の際を誘導するメカニズムや長期耐久性,骨類似アパタイト層形成メカニズムと形成に伴う強度低下メカニズムについては十分明らかとなっていないが,現在長期擬似体液液浸漬試験を実施中であり,本試験より得られた試験片に対して,今年度,所属機関に導入された薄膜X線回折装置や昨年度導入した原子間力顕微鏡を用いた調査により,そのメカニズムを明らかとする予定である.このため,短期的浸漬試験後の試験片に対して予備的調査を行っている.以上,次年度へつながる結果が得られており,おおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究でイオン注入よりもりん酸や水酸化ナトリウムを用いた溶液プロセスの方が生体活性が向上することが確認されている.また,ジルコニアにおいては,この表面処理に伴う初期強度の低下が確認されたが,アルミナ強化ジルコニアにおいては強度低下がほとんど見られなかった.基本的に表面のラス構造化に伴い生体活性が増し,この表面の多孔化に伴い強度が低下すると予想していたが異なる結果となった. この強度低下のメカニズムを明らかとするため,表面組織の走査型電子顕微鏡による観察,薄膜X線回折による表面結晶構造の同定,原子間力顕微鏡に楊表面構造観察を行う.また,イオン注入と溶液プロセスを組み合わせることにより生体活性をさらに向上させることが可能か検討する. これまでは骨類似アパタイトの形態学的観察しか行ってこなかったが,本年度はさらに詳細な検討を行う.作製した試験片の長期擬似体液浸漬に伴う骨類似アパタイト形成を観察し,形成された骨類似アパタイトの生体骨との類似性の調査を行う.このため薄膜X線回折を行い,結晶状態の同定を行うが,同時に,形成された骨類似アパタイトの細胞毒性の有無を検討する.このため,骨芽様細胞であるMC3T3-E1を形成された骨類似アパタイト層上で培養し,コントロール材の結果との比較を行う. 本研究で開発する材料を実際に臨床応用する際には,長期にわたる耐久性の保証が重要となる.このため,本研究では擬似体液浸漬に伴い骨類似アパタイト形成されたジルコニア系材料に対しても二軸曲げ試験を行いその強度低下について検討を行う.表面に形成した骨類似アパタイトは表面とそれほど強固に結合していないことがこれまでの検討から明らかとなっている.このため,骨類似アパタイト層を除去した表面状態の原子間力顕微鏡による観察,さらに破面の走査型電子顕微鏡観察を行い,強度低下と表面構造・形態の関係を明らかとする.
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