2019 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Nano-Surface Integrity Measurement of Machined Glass Component using Entangled Photon Probe
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19H02042
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高谷 裕浩 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70243178)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水谷 康弘 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40374152)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ガラス加工表面 / ナノ・サーフェスインテグリティ / 仮想量子ドット / 量子もつれ光子プローブ / ドレスト光子フォノン / 予測型マイクロクラック計測 / 加工計測 / フォトンメトロロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ナノ領域の局所的な短距離秩序に支配される微視的構造/応力場の物質情報をもつドレスト光子フォノンと空間情報をもつ量子もつれ光子との相互作用を機序とし,量子もつれ光子対の2光子量子干渉に基づく,新たな量子もつれ光子プローブシステムの基本原理を確立し,サーフェスインテグリティの深さプロファイルをナノ分解能で計測可能な手法を確立することを目的としている. そこで本年度は,ドレスト光子フォノンによるナノ構造/ナノ応力場計測の基本原理を確立するため,本計測光学系において安定したもつ量子もつれ光子の発振が要求される量子もつれ光源の構築および特性評価を行い,さらにそれを用いた光子量子干渉基本光学系の構築と基礎実験を推進し,次のような研究成果[1]~[5]を得た. [1] 量子もつれ光源を試作し,時間相関性のある光子対の発生が確認され,試作した量子もつれ光源の基本動作特性を明らかにした. [2] 量子もつれ光源を用いたマッハツエンダー干渉計タイプの2光子量子干渉の基本光学系を構築した. [3] レーザ後方散乱光のドレスト光子フォノンとマイクロクラック深さおよびその近傍の応力場との実験的解析を遂行するための実験技術を整備することができた. [4] ガラス素材に外部応力を負荷しながら,ラマンスペクトル解析を行う基礎実験装置を構築した.また,独自に開発したラマンスペクトルデータ処理アルゴリズムを実装した計測システムを開発した. [5] 単結晶石英の応力負荷下におけるラマンスペクトル計測基礎実験を遂行し,負荷および除荷時のラマンスペクトル解析によって,ひずみゲージによるひずみ量モニタリングとラマンスペクトルピーク波数のシフト量変化の相関性を確認した.さらに,インデンテーションクラックを導入したレンズ用ガラス素材のクラック周辺における残留応力検出が可能であることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,量子もつれ光子プローブシステムを構成する空間計測系および散乱ドレスト光子計測系の基本技術の開発を研究目的としている.そこで,本年度の研究計画では,空間計測系の基本光学系である2光子量子干渉計において特に重要な要素である量子もつれ光源の試作および基本特性の検証を行い,さらに散乱ドレスト光子計測系の基礎技術となる,ガラス透過/散乱光のラマン分光計測による応力推定の可能性を示すことを目標とした. これに対して,非線形光学結晶BiBO結晶を用いたパラメトリック下方変換(SPDC)を利用する量子もつれ光源を試作し,2つの単一光子計数器(SPCM)を用いて,時間相関性のある光子対の発生を確認した.また,量子もつれ光源から射出されたシグナル光子とアイドラ光子を,それぞれ物体光および参照光として分割し,位相シフトを与えるピエゾ駆動参照ミラーを導入したマッハツエンダー型干渉計を構築し,位相シフト法を利用した2光子量子干渉計測の準備を進めている. 一方,レーザ後方散乱パターン検出光学系を利用した研磨加工ガラスレンズ試料の測定実験によって,平均深さ約20μmのマイクロクラック検出および深さ推定が可能であることを検証した.また,ガラス素材のラマンスペクトル計測システムを独自に開発し,単結晶石英の応力負荷下におけるラマンスペクトル計測に成功したが,ひずみ測定精度およびラマンスペクトルの計測精度は未だ十分であるとはいえない.さらに,応力場が石英ガラスよりも短距離秩序に支配されているレンズ用ガラス素材のインデンテーションクラック周辺におけるラマンスペクトルのシフト量変化から,クラック周辺の残留応力検出が可能であることを明らかにできたのは大きな成果であるが,未だ定量的な推定に至っていないことから,進捗状況として「おおむね順調に進展している」の評価とした.
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な推進方針は,今年度の研究実績を発展させる方向で進める予定である.まず,量子もつれ光子プローブシステムを構成する空間計測系および散乱ドレスト光子計測系全体に与える影響の大きい課題として,今回試作した光源の量子もつれ光子対の光子数が0.4組/秒と少ないため,SPDCによって生成される光子数を増加することが挙げられる.そのためには,光源光学系へのコリメータの導入やファイバ伝送といった伝播光路の改良,およびポンプレーザーのエネルギ密度の向上や擬似位相整合を用いた高効率のSPDCが可能な非線形効果の利用が必要である.例えば,今回用いた非線形結晶BiBOよりも大きな非線形光学定数を持つ非線形結晶の選定や分極反転デバイスなどの検討を進める. 次に,本測定法の優位性は,結晶格子構造のひずみから応力を測定する原理ではなく,ドレスト光子とナノ寸法原子構造体(仮想量子ドット)におけるフォノンの相互作用に基づいて応力を推定することにより,非晶質(アモルファス)構造への適用性を有する点である.その基本原理を確立するためには,今回独自に開発した,ガラス素材のラマンスペクトル計測システムを利用して,フォノンの挙動に基づいた応力測定原理の可能性を明らかにする必要がある.そこで,単結晶石英基板を基準試料として,フォノンバンドをラマン周波数シフトから定量的に推定する方法について,詳細な理論的解析と基礎実験による検証を進める. さらに,レーザ後方散乱パターンによって検出されたガラス加工表面マイクロクラック近傍の局所応力分布計測法への展開を図るため,ラマンスペクトル計測システムと同時計数器を同期することにより,空間計測系と同距離の表面層深さから到達する散乱ドレスト光子のみを,ラマン分光計測可能とする基本技術を確立し,散乱ドレスト光子の検出可能性を明らかにすることが不可欠である.
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