2019 Fiscal Year Annual Research Report
境界近傍の気体の空間多次元性非平衡流れと流体力学方程式の解を接続する理論
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19H02065
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
矢野 猛 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60200557)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 境界条件 / ボルツマン方程式 / 漸近理論 / 気液界面 / Knudsen層 |
Outline of Annual Research Achievements |
固気・気液の境界面近傍の気体の非平衡効果を界面におけるすべりの境界条件を通して、界面から離れた領域の気体の運動を支配する流体力学方程式の解に取り込む理論はおおむね完成されている。しかしながら、その理論は界面に対する法線方向の座標に強く依存する1次元的非平衡流れを扱う(界面から離れた領域の流体力学方程式の解は3次元的である)。一般に、界面近傍には様々な多次元的非平衡流れが生じ得るが、これに対応するすべりの境界条件に対する系統的理論研究は未完成である。本研究課題では、空間2次元あるいは3次元のボルツマン方程式の境界値問題の精密な数値解を求めて非平衡な挙動の特徴を明らかにし、空間多次元性非平衡流れと流体力学方程式の解を接続する理論を構築する。これによって、流体力学の適用範囲を拡張し様々な工学的応用問題に対する流体力学の有用性と信頼性を格段に高めることを目指す。学術的重要性としては、(i)非線形微分積分方程式であるボルツマン方程式に対して高精度で高効率の数値解法を開発すること、それによって(ii)空間多次元性非平衡流れそのものへの理解を深めること、および(iii)流体力学の有用性と信頼性を質的に向上させることが挙げられる。 具体的には、以下の問題を、界面の法線方向への半無限境界値問題として定式化し、3次元ボルツマン方程式の定常解の一意存在を保証する条件として、遠方の局所平衡分布が満たすべき条件を、1 次元問題に倣って決定する(矢野、流体力学会年会2017):(i)液滴からの等方および非等方蒸発流と凝縮流の問題、(ii)壁面に沿う方向に大きな温度勾配をもつ壁近傍の非平衡気体流れ、(iii)平均自由行程程度の曲率半径の凹凸と大きな温度勾配を有する境界に接する非平衡気体の流れの3つである。ただし、(i)と(iii)については解析準備中であり、おもに(ii)の問題に対して計算を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、壁面に沿う方向に大きな温度勾配をもつ壁近傍の非平衡気体流れの問題を、壁面に対する法線方向への半無限境界値問題として定式化し、座標と分子速度と時間の7つの独立変数の非線形微分積分方程式であるボルツマン方程式に対する高精度・高効率の数値解法の開発を行いながら、解析を実行している。とくに、ボルツマン方程式の時間と座標に関する偏微分項は高次精度有限差分によって近似し、非線形積分項はガウス・ルジャンドル公式によって高次精度の数値積分を行う方法を空間多次元へ効率を損なわずに拡張する作業に取り組んでいるが(Yano, FDR 2008; 矢野、流体力学会年会2017)、この目的はおおむね達成されつつある。これから、得られる高精度数値解のデータをもとにして、3次元ボルツマン方程式の定常解の一意存在を保証する条件として、遠方の局所平衡分布が満たすべき条件を、1 次元問題に倣って決定する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終目標としては、気体分子の平均自由行程程度の任意の曲率半径の凸凹形状の固体壁面に沿って大きな温度勾配が形成されている場合に、壁面に接する気体の非平衡流れの解をボルツマン方程式を解いて高精度で数値的に求めて、遠方の局所平衡状態へ漸近する過程の特徴を明らかにし、これと接続する流体方程式の解を与えるすべりの境界条件を導出する理論的枠組みを構築することである。その際にとくに労力を注ぐべき点は、(i)遠方を含む大きな空間スケールにおいて高精度の数値解を求めること、(ii)非平衡流れと接続する流体方程式の数値解をも高精度で求めること、および(iii)流体方程式の境界値問題の解を一意に確定する境界条件の数学的基礎付けを与えること、などである。これらの諸課題を同時進行で検討しながら解析を進めて行く。
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