2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Drones Equipped with High-Speed Optical Electronic Nose Sensors: Toward High-Precision Atmospheric Environmental Monitoring
Project/Area Number |
19H02103
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
石田 寛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80293041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩見 健太郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80514710)
田中 雄一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10547029)
松倉 悠 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60808757)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 知能ロボティックス / センサ工学 / 計測工学 / 環境計測 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,光学式嗅覚センサをドローンに搭載して,大気環境モニタリングに応用することを目指す。具体的な測定対象として,廃棄物埋立地に発生するメタンなどの温室効果ガスや,硫化水素,メルカプタンなどの悪臭物質を取り上げる。 ガス分子は,その分子構造に応じて特定の波長の赤外線を吸収する。これを利用してガスを検知するセンサを実現するためには,赤外線検出器に加え,小型赤外線光源が必要となる。本年度は,プラズモン共鳴により高い効率で赤外線を輻射するMEMS素子の設計を行なった。メタンの赤外線吸収波長は3.3ミクロンであり,この波長の赤外線を輻射するMEMS光源を実現するためには,素子を900 K程度まで加熱する必要がある。既報の金薄膜を用いた輻射光源では耐熱性が不足するため,高い融点を持つ窒化チタンを材料とする光源を新たに設計し,シミュレーションによりその輻射効率を確認した。 並行して,嗅覚センシング用ドローンの開発にも取り組んだ。陸上走行型ロボットと比べ,マルチコプタなど空中を飛行するドローンは機動性に優れる。しかし,マルチコプタは強い下降気流を作るため,地表から放出された埋立地ガスを吹き飛ばしてしまう。そこで,回転翼の間隔を広げたマルチコプタを低空飛行させる。それぞれの回転翼から吹き下ろした気流が地表に沿って放射状に広がり,互いに衝突すると,地表から回転翼間に向けて上昇する気流が発生する。この気流を使い,地表付近を漂うガスを上空に巻き上げ,ドローンに搭載したガスセンサで検出する。地表に多少の凹凸や傾斜があっても,実際にガスを巻き上げて検出できることを実験により確かめた。地表のガス濃度分布から埋立地ガスの発生位置を推定する深層学習ニューラルネットワークの開発も行った。縦7.5 m,横6 mの領域の外周でガス濃度を計測するだけでも,内部のガス発生源位置を推定できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度の研究実施計画を概ね予定通りに遂行し,次年度に行う研究の準備を整えることができた。まず,光学式嗅覚センサの開発に関しては,埋立地ガスの主成分であるメタンを検出ターゲットとし,メタンに吸収される波長の赤外線を輻射するMEMS素子の設計を行なった。素子の試作も行なったが,作製過程で素子の構造が破壊されてしまい,実際に赤外線輻射特性の測定を行うまでには至らなかった。しかし,素子の破損の原因が窒化チタン層に生じる内部応力である可能性が高いことから,製作工程で薄膜内に生じる内部応力をゼロに近づける検討を既に行っている。強度を増した素子の設計を既に完了しており,次年度には新たな素子を試作して,すぐに性能評価に取りかかることが可能な体制を整えている。 嗅覚センシング用ドローンの開発は,順調に進んでいる。マルチコプタを低空飛行させると,それぞれの回転翼から発生した下降気流が地表で衝突し,上昇気流が発生する。この気流を活用し,地表付近を漂うガスを上空のマルチコプタの高さまで巻き上げてガスセンサで検出する手法を,ザリガニの嗅覚探索行動から着想した。原理上,地表に凹凸や傾斜がある場合には地表付近で気流が乱され,想定した通りの上昇気流が発生しないことが懸念される。しかし,マルチコプタの回転翼が作る気流には,元来,その回転翼の直径と同程度のスケールの乱れが含まれている。実際に実験を行なった結果,多少の凹凸であればガスを巻き上げて検知できることが示された。地面に傾斜がある場合にも,ガスを巻き上げることができた。ただし,地面が平らな場合には,地表からマルチコプタの中心の位置に向けてガスが巻き上がるので,この位置にガスセンサを取り付ければガスを検知できる。一方,地面に傾斜がある場合には,中心からずれた位置にガスが巻き上がる。そのため,次年度にガスセンサの取付け位置を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
光学式嗅覚センサの開発に関しては,設計したMEMS赤外線輻射素子を試作し,その特性を評価する。ガラス基板上に犠牲層としてシリコンの薄膜を形成し,その上に窒化チタンの層を成膜する。その後,シリコン層の一部を除去することにより,窒化チタンの架橋構造を作る。今年度に試作を行なった際には,製作過程で架橋構造が壊れてしまった。次年度は,各層の強度を考慮しながら,残留応力がゼロに近づくように各層の膜厚を最適化し,素子製作を進める。また,赤外線の輻射効率を高めるため,プラズモン共鳴の励起方法を工夫した,より複雑な構造の素子設計・製作にも取り組む。 嗅覚センシング用ドローンの開発に関しては,四つの回転翼を持つクアッドコプタを低空飛行させた実験を今年度に行った。地表に多少の凹凸や傾斜があっても,ガスを地表から巻き上げられることを確認している。次年度は,巻き上げたガスを確実に検知できるように,クアッドコプタに取り付けるセンサの位置を検討する。また,実際の埋立地における地表の状態を調査する。埋立地ガスの濃度が希薄な場合には,センサの感度が不足する可能性がある。そこで,各種ガスを素早く濃縮してセンサに提示する装置の開発にも取り組む。 ドローンが収集したセンサデータの処理手法の開発に関しては,深層学習ニューラルネットワークを用いたガス源位置推定を試みた。しかし,センサ応答のドリフトのために十分な推定精度が得られないこともあったので,その解決に取り組む。このニューラルネットワークや圧縮センシング,グラフ信号処理などの信号処理手法の開発には,多様な気象条件下で収集したセンサデータが必要となる。屋外における実測データの収集を続けつつ,シミュレーションによりデータを大量生成することも検討する。
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