2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H02122
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (90323443)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プラズマ医療 / がん治療 / 免疫治療 / ストリーマ放電 / 免疫チェックポイント阻害剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、マウスのメラノーマ癌腫瘍にナノ秒ストリーマ放電を照射すると、マウスのメラノーマに対する免疫が活性化して、マウスの全身のメラノーマに対して抗腫瘍効果が得られる可能性を、先行研究で世界で初めて示した。本研究はこれを発展させ、ナノ秒ストリーマ放電による治療効果のさらなる検証、放電照射最適条件の探索、および治癒原理の解明を行う。 本年度は、近年がんの免疫治療の臨床で使われるようになった免疫チェックポイント阻害剤との併用実験をマウスを使って行った。免疫チェックポイント阻害剤は、患者に対する奏効率が10~40%程度と低いのが問題となっており、この奏効率を向上させる研究が世界で盛んに行われている。本研究で用いるナノ秒ストリーマ放電はマウスの癌に対する免疫を向上させるため、免疫チェックポイント阻害剤の効果を増加させる働きがあると期待して実験を行った。マウス大腸がんCT26を用いて実験した。その結果、免疫チェックポイント阻害剤単体では効果が得られない程度の投与量において、放電を併用すると著しく効果が表れる非常に有望な結果が得られた。ただし、この実験は複数回行ったが、まだ1回しか成功しておらず、再現性をとれるような実験条件を探索中である。 この他、プラズマのどの要素が効いているかを調べる研究の一環として、ストリーマ放電の活性種密度計測、電子密度計測、シミュレーション開発、およびOHラジカルを照射して表面処理の効果を調べる真空紫外法の開発も平行して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫チェックポイント阻害剤とナノ秒ストリーマ放電の併用実験が成功したことは、非常に画期的な結果である。この実験の再現性がとれていれば大変すばらしい研究成果となったが、現在のところ再現性をとるのに苦労しており、再現性がとれる条件を探している段階である。したがって、おおむね順調に進展している段階である。 一方のストリーマ放電の計測やシミュレーションは順調に進んでおり、本実験でがんの免疫治療に用いているストリーマ放電の中身が明らかになりつつある。また、プラズマ癌治療で重要と考えられている活性種の効果を調べるための手法の研究も順調に進んでいる。これらの基礎研究は、プラズマ癌治療の原理解明に向けて必須となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、放電照射による抗腫瘍効果がマウスの実験で安定的に得られるような、再現性が得られる条件の探索が課題となる。先に述べたように、本実験では非常に有望な結果が得られることがあるが、その再現性にまだ難点がある。動物実験の、特に免疫がかかわるようなデリケートな実験では、些細な条件の変化で実験結果が大きく変化してしまうことはよくあるため、ここをクリアしていく。 再現性が得られるようになったら、次はプラズマ照射の最適条件の探索である。現在、プラズマは1日10分間、5日間連続で照射している。実際の治療で5日間の照射は困難なため、これを1日の照射で済むようにすることが大きな目標である。放電電圧、放電周波数、放電ガス、電極距離など、多くのパラメータを最適化することができる。 本年度は免疫チェックポイント阻害剤の併用実験を行ったが、プラズマ単体で照射したときの効果を調べることも重要である。 治療原理の解明も課題である。プラズマ側の活性種密度、電界、電子密度などを計測やシミュレーションで調べる研究に加えて、マウスの体内で何が起きているかを調べる生化学的な分析も必要となる。具体的には、腫瘍内に発生している樹状細胞や細胞障害性T細胞などの免疫細胞の量をフローサイトメトリーで測定したり、マウスの脾臓に免疫記憶がなされているかを調べるための、ELISA計測によるIFN-γなどサイトカイン放出量の測定などがあげられる。
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Remarks |
なし
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Research Products
(17 results)