2020 Fiscal Year Annual Research Report
局所磁気特性制御技術及びその計測手法の確立と高機能薄膜磁気デバイスへの適用
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19H02147
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
菊池 弘昭 岩手大学, 理工学部, 准教授 (30344617)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 磁気異方性 / 磁性薄膜 / 局所制御 / 磁気デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から引き続き、ジュール加熱においては、薄膜磁気インピーダンス特性評価を主体に磁気特性制御に関して検討した。本研究で用いるアモルファス磁性材料は、ある温度以上で加熱すると結晶化を生じて磁気特性が劇的に劣化する。結晶化を回避するため、対象とする素子構造において結晶化に至る過程を詳細に検討した。幅40μm, 厚さ2μmを有する素子においては、180mA以上の電流印加から結晶化が進行し、200mAで大幅な抵抗値の減少、外部磁界依存性の消失、すなわち、軟磁気特性の劣化が確認された。シミュレーション結果によると180mAから200mAの電流印加により、実験と同寸法の素子において温度は400℃から450℃程度に達し結晶化温度と対応する。この温度以下での熱処理が軟磁気特性を維持したまま磁気特性変化を生じるためには重要である。磁区観察から、結晶化した素子では通常のセンサ素子でみられる180°磁区や磁区の磁場に対する応答は観測されなかった。一方、軟磁気特性を保った状態の素子で、ジュール加熱前後を比較するとゼロ磁場付近で180°磁区を示す点は共通していたが、磁場に対する磁区の応答は大きく異なっていた。このことは、磁場印加を伴うジュール加熱により、磁気デバイスの特性に影響を及ぼす磁区構造を制御可能なことを示している。一方、以下の項目が次年度実施すべき課題として見出された。1.ジュール加熱により磁気インピーダンス特性を介して、磁気特性変化を確認できたが、そのメカニズムについては不明な点があり、局所的な組織変化に伴うものか、誘導磁気異方性の変化によるものか等について明らかにする必要がある。2.レーザー加熱に対する検討がコロナ禍の影響もありやや遅れ気味なので、次年度の早い時期に条件出しを完了する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響により、前期(10月以前)は研究室活動においても3密を避けるため、学生の研究活動時間が通常より削減された。加えて、レーザー利用の局所異方性制御を担当していた学生(卒業研究テーマとして割り当て)においては、コロナ禍の影響プラス学生個人の諸事情が重なり、構築した真空系での予備実験までは検討したものの、レーザー加熱の条件出し部分の進捗に遅れを生じた。よって、他の学生を主体としてジュール加熱の検討を中心的に進める形となった。現状は、少なくとも本学においては、研究活動の制約等はなく、レーザー加熱担当学生も通常通りの研究活動に復帰しており、今後の推進方策でも触れる通り、次年度の始めにレーザー加熱の部分を優先的に検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においては、薄膜磁気インピーダンス素子特性制御にジュール加熱を適用する観点から検討を行い、特に結晶化させないための条件出しに注力した。結晶化しない電流強度の範囲内で、磁場印加を併用しながらの加熱においては、実験的に磁気特性変化を確認している一方、特性変化のメカニズムについて一部不明な点が残されており、その解明について今年度も引き続き検討を進める。他方、レーザー加熱の条件出しは若干遅れ気味なので、今年度の前半に集中的に行う。その他、今年度前半にこれまでに得られた条件を基に、磁気インピーダンス素子や薄膜インダクタの特性制御に局所加熱技術を適用する検討を進める。 9月、10月を目途に熱処理条件の最適化を完了し、(1)-(3)に示すような薄膜磁気デバイスの高性能化を目指す。(1) オンチップ2軸磁界センサの実現、(2) 素子端部の異方性制御、 (3) 高性能薄膜インダクタの実現 (1)は1つの基板上で2方向の磁界をセンシング可能な磁界センサであり、電磁非破壊検査における磁場計測をベクトル的に可能にするものである。(2)は磁界センサ素子の小型・高感度化を可能にし、空間分解能向上に寄与する。(3)は導線配置に対応した磁気異方性制御を行うことで、Q値等の向上を目指す。 上記検討を遂行することに並行して、得られた研究成果については国際会議を含む学術会議で発表を行い、論文投稿も実施する。最後に、年明け1月から3月にかけて本研究の総括を行い、ジュール加熱とレーザー加熱を併用した局所磁気特性制御の最適条件、及び開発技術に基づく高機能薄膜磁気デバイスへの適用性について評価をまとめる。
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