2019 Fiscal Year Annual Research Report
Thin film formation of two-dimensional carbon nitride structure based on precisely-designed precursors and its application toward photoactive membrane reactors
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19H02174
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
野田 啓 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30372569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 彰浩 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90293901)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 二次元窒化炭素 / ナノ材料 / エネルギー変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
多様な電子状態を有する二次元窒化炭素構造体を合成することを目的として、本研究では、原料モノマーとしての拡張π共役系有機分子ユニットを導入した窒素リッチな新規前駆体の合成検討を行った。特にレドックス能を付与した2種類の前駆体分子系の開発に注力した。また、これまでの二次元窒化炭素材料が主として、s-トリアジンやトリ-s-トリアジン(ヘプタジン)骨格を基本とした構造を有している点に着目し、[n]アジン系分子の電子状態の特徴について明らかにするため量子化学計算を実施した。その結果、[12]アジン以上の類縁体は、開殻電子構造を持つものがあり、2次元分子平面が局所的に凹凸している構造となっていることも予測された。こうした知見は今まで見過ごされており、今後の前駆体分子設計において有益な結果を得ることができた。 また、二次元窒化炭素構造体の薄膜成長に向けて、熱化学気相成長(熱CVD)装置を新規に構築し、メラミンやグアニジン炭酸塩を前駆体として用いて、二次元窒化炭素構造体の成膜を試みた。前駆体の温度、基板の温度、キャリアガスの流量などを制御して薄膜成長を試した結果、グアニジン炭酸塩を用いた時に二次元窒化炭素を含んだ膜が基板表面上の比較的広い面積に渡って形成されることを見出した。 一方、二次元窒化炭素膜における局所的な構造・電子物性評価の実施に向けて、位相変調方式による電位検出が可能なケルビンプローブ顕微鏡(KPFM)を新たに立ち上げた。標準試料を対象としたテスト観察によって、検出される電位信号の定量性の確保、位相変調方式による表面電位像の空間分解能向上を確認した。さらに、KPFMの評価対象試料の作製に向けて、グアニジン炭酸塩の熱分解後に得られる二次元状C3N4(g-C3N4)粉末試料に対する化学的剥離と遠心分離処理を行い、数層のg-C3N4ナノシートを取り出すことができることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前駆体の合成に関しては、(i) フェナジンを構成単位とするアザアセン型のレドックス活性分子系、(ii) ヘキサアザトリフェニレン(HAT)を窒化炭素コア部分とするレドックス活性分子系に注目して合成経路の確立を図るべく検討行った。こうした窒素リッチなπ電子系有機分子の合成においては、パラジウム系触媒を用いたクロスカップリング反応が阻害されるようなケースもあったが、概ね合成経路の確立が達成できたものと考えている。最終生成物の精製方法については次年度早期に達成する予定である。また密度汎関数法を用いて[n]アジン系分子の電子状態の特徴について解明することができた。得られた知見は、従来の二次元窒化炭素構造体の電子状態・分子構造を考察する上でも、また、新たな前駆体分子設計につながるという点でも有意義な知見が得られたと考えられる。 また、初年度ということもあり、熱CVD装置の新規構築やKPFMへの位相変調方式導入など、実験装置の整備に多くの時間を要したが、それも当初の想定の範囲内であった。実際に、これらの装置が正常に動作し、次年度以降の研究計画遂行において十分に活用できる性能を有することが確認でき、今後の研究の進展に期待が持てる結果を得ることができた。 以上の事項を考慮し、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前駆体の新規合成に関しては、昨年度に実施検討した窒素リッチなπ共役系炭化水素化合物群の合成経路開拓を引き続き行う。これらの化合物は、熱CVD法や湿式プロセスなどの手法を用いた二次元状C3N4の類縁体の薄膜試料形成のための前駆体として活用する。また、これら前駆体化合物にレドックス活性修飾基を導入することにより、レドックス前後における電子状態・分子構造変化についての知見を得る。さらに、これら前駆体化合物に反応性置換基を導入することにより、二次元窒化炭素構造体化における反応を制御する手法を検討する。また昨年度に実施した [n]アジン系分子の量子化学計算による電子状態・分子構造解析で得られた知見をもとに、新たな前駆体分子材料の開発にも取り組む。 一方、上記で設計される新規材料を含めた各種前駆体を用いて、二次元窒化炭素構造体の薄膜形成を進める。熱CVD法を継続して使用するだけでなく、溶媒可溶性を有する前駆体を用いた湿式プロセスによる薄膜形成も新たに実施する。大面積でかつ高純度な膜形成の条件の確立を目指すと共に、薄膜試料の構造評価や光電子物性評価を行い、高効率な光吸収と電荷分離性能を有する二次元窒化炭素膜の作製の指針を得る。 また、二次元窒化炭素構造体の薄膜試料に対して、KPFMを用いた表面電位測定を行う。昨年度に導入した位相変調方式に基づく電位検出法を用いて、窒化炭素試料表面の仕事関数の計測を行い、エネルギーバンド構造の描像を得る。また、試料表面への外部電圧印加や光照射下での表面形状/表面電位の同時観察により、窒化炭素薄膜における局所的な電子状態や電荷分離、キャリア伝導機構に関する知見を得る。それと並行して、気相/液相系反応に対する光触媒活性評価にも実施し、光触媒反応の量子収率や窒化炭素の基本的な物性値との相関を追跡し、膜反応器に適した性能を有する試料作製条件の検討を実施する。
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