2019 Fiscal Year Annual Research Report
藍藻に対する次世代型環境ストレス評価手法の開発とカビ臭対策の新技術への展開
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19H02245
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
セナヴィラタナ ジャヤサンカ 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (70812791)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / カビ臭対策 / 活性酸素 / 過酸化水素 / 環境ストレス指標 / アオコ対策 / 富栄養化 / 貯水池対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
カビ臭を発生する種としてしられるPhormidiumを対象に、複数のストレス要素を負荷した実験を行い、ストレス強度の指標として考えている、過酸化水素濃度を測定、ストレス強度と生成される過酸化水素濃度との関係を求めた。また、蛋白質量やクロロフィル量を測定、過酸化水素濃度との関係を求めることで、指標化を図った。 まず、ストレス強度の増加に対し、藍藻の体内で生成される過酸化水素濃度は増加すること、過酸化水素濃度の増加と共にクロロフィル濃度は低下、増殖速度は低下することを確認した。次に、光強度と栄養塩濃度に焦点を当て、ストレス強度と生成される過酸化水素との関係を求めた。 まず、光強度を定常的もしくは可変的に変化させ、それによる蛋白質あたりの過酸化水素濃度の生成濃度を求めた。光強度が、極めて低い環境下では、蛋白質あたりの過酸化水素濃度は高濃度になるものの、光強度の増加と共に低下、30microM/m2/s程度の光強度で最低値をとった後、その後は光強度の増加と共に過酸化水素濃度も増加、ストレスが増加することが得られた。この結果より、通常の水域の表層では、光阻害の影響を大きく受けていることが示された。 次に、窒素濃度を固定、リン濃度を変えて、栄養塩濃度に対する蛋白質あたりの過酸化水素濃度を求めた。その結果、栄養塩濃度の増加と共に、蛋白質あたりの過酸化水素濃度は低下し、ストレスが低下することが示された。 次に、光強度及び栄養塩濃度によるストレス、それぞれに対する蛋白質あたりの過酸化水素濃度の増加量を表す関係を定式化、さらに、これらのストレスを複合的に負荷した実験を行った。この結果を比較することにより、複数のストレスが複合的に負荷される場合、それぞれのストレスで増加する割合を合わせた量で示されることが得られた。さらに、全体の過酸化水素濃度が一定値に達すると、増殖が抑えられることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水域で藍藻が増殖する際には、いくつかの環境要素に左右されるものの、通常は、こうした要素は、常に変化しており、増殖の評価する指標にするには極めて難しい。そのために、本研究では、まず、環境ストレス下で、藍藻体内に生成される過酸化水素濃度を測定することで、藍藻が環境から受けるストレス強度を見積もり、藍藻の生理状態や増殖に適した環境を評価するシステムを開発することを考えた。しかし、こうした評価法は、過去に例がないことから、この仮説の正当性を確かめる必要があった。 2019年度には、まず、室内実験において、ストレス下で増殖させ、藍藻体内に生成される過酸化水素濃度を測定することで、この関係を調べた。ストレスとしては、通常、藍藻の増殖に大きく関与していることが知られている、光強度及び栄養塩濃度を採用、これらのストレスが異なる強度で、単独もしくは複合的に負荷する環境下で、藍藻を増殖させ、過酸化水素濃度の発生量を評価することを試みた。 その結果、まず、藍藻の有する蛋白質量あたりの過酸化水素濃度の生成量を指標化することが可能なことが示された。また、この指標により増殖量が一義的に評価でき、ある値に達すると増殖が抑えられることも示された。 次に、それぞれのストレスが単独に負荷される場合には、ストレス強度に応じて過酸化水素濃度は増加すること、異なるストレスが複合的に負荷される場合には、それぞれのストレスが単独に負荷される場合の過酸化水素の増加量を足し合わせることで、全体の増加量を示すことが可能であることが示された。 2019年度においては、室内実験と同時に野外観測を行って、室内実験の結果を確かめる予定であった。ところが、夏季から秋季の藍藻が増殖する時期において、台風の来襲が続き、野外の水域において藍藻自体の増殖がなく、観測を翌年に繰り越すことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、光阻害が藍藻の増殖抑制にすることを想定していたが、過酸化水素濃度に対象を絞ることが可能になったことで、その方向で進める。 藍藻の増殖速度は実験と実際の水域とで異なることが多い。そのため、本研究においては、実際の水域での観測が不可欠である。野外の水域での観測は、2019年度に予定していたが、悪天候が続いたことで行えなかったことから、次年度に行うことにしている。その際、光強度、水温、栄養塩濃度など、藍藻の増殖に影響を及ぼす量を同時に測定することで、野外の水域においても実験で求めた関係が成立することを確かめる。ただし、新型コロナ禍で作業が限られることが予想されることから、行える作業を見極めながら進めることとする。 実際の水域においては、藍藻の枯死の状況が明瞭に得られる。生成された過酸化水素濃度と藍藻の枯死の状態を比較することで、枯死に必要な過酸化水素濃度を求める。これと環境条件を関連させることで、藍藻の増殖抑制に必要な環境条件を得、実用に向けた整備を行う。 野外の水域においては、有機物が紫外線によって分解されることで過酸化水素が生成されることが知られている。早朝など、藍藻に対するストレスが低い状況下でサンプリングを行い分析することで、この量の把握を行い、これが藍藻の増殖抑制に果たしている役割を得る。 他方、近年、過酸化水素を付加することで、藍藻の発生を抑制することも提案されている。2019年度の室内実験で、過酸化水素濃度は光強度に依存して増加することが得られていることから、一日を通したサンプリングを行うことで、藍藻体内に生成される過酸化水素濃度一日のうちでの変化を求め、日射の多い時期に生成される過酸化水素濃度との関係から、対策において、過酸化水素の付加の必要性を求める。
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