2019 Fiscal Year Annual Research Report
日本の前線性降雨に対する物理的最大規模降水量推定手法の適用
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19H02251
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
石田 桂 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (70800697)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 想定最大規模降水量 / 領域大気モデル / 力学的ダウンスケーリング / 前線性降雨 |
Outline of Annual Research Achievements |
想定最大規模降水量の推定における既存の手法の問題点を克服するため,領域大気モデルによる数値実験を用いたMaximum Precipitation (MP) Estimationという手法がアメリカ合衆国の流域を対象に開発された.本研究ではMP Estimation法を過去に前線性降雨による豪雨災害が発生した福岡県朝倉地域を対象に改良を行い,実際に想定最大規模降水量の推定を行うことを目的とする.本研究の手順は,1)前線の影響により引き起こされた降水イベントの選定,2)各降水イベントの再現計算,3) 各降水イベントにおける降水量の最大化,4)想定最大規模降水量の推定降水量からなる.また,本研究ではa)前線性降雨により朝倉地域及びその周辺で豪雨が発生した降水イベント,b)九州北部周辺に前線が停滞し,高湿度の大気が前線に向かい流れ込んだ降水イベントを最大化の対象とする.本年度は,このうちaの降水イベントを選定し手順1,2を行った.そして,手順3の導入として1つの降水イベントに関し降水量の最大化を試した.本年度中には選定した全ての降水イベントで十分な精度を得るまでには至らなかったが,複数のイベントを高い精度で再現した.前線性降雨の再現計算は非常に困難であり,前線性降雨を対象にした数値実験による想定最大規模降水量の推定を行う上で非常に重要な結果と言える.また,本研究では高い時空間解像度を持つ最新の再解析データERA5を用い,再現計算にいてその有用性を示した.一方で,朝倉地域周辺は山々に囲まれ複雑な地形を有する.そこでの数値実験による平成29年7月九州北部豪雨における周辺地形の影響評価を行った.朝倉地域を対象としたMP Estimation法の適用・改良に向けて重要な知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は概ね年度計画通りまず解析雨量データから九州北部で過去に発生した豪雨を抽出し,豪雨が発生した日及び前後の大気場(天気図を含む)から前線性による降水イベントを判別することにより,前線性降雨により朝倉地域及びその周辺で豪雨が発生した降水イベントの選定を行った,次に,領域大気モデル(WRF)を対象地域において実装し,選定した降水イベントを対象にモデルパラメータの様々な組み合わせを試し,再現計算を行った.その後,一つの降水イベントに関して数値実験による降水量の最大化手法を試した.一方で,詳細に関しては状況に合わせ変更を行った. まず,当初の計画では領域大気モデルの初期・境界条件にはERA-Interim再解析データを用いる予定をしていた.しかしながら,より高解像度の再解析データERA5の公開を知り,予定を変更しERA5を公開サイトからダウンロードし,ERA5を初期・境界条件に用いることにした.また,対象地域における降水量の最大化に関し周辺地形が重要であると考え,降水量の最大化の前に,当初の計画には含まれていなかった平成29年7月九州北部豪雨を対象に数値実験による降水量への地形の影響評価を行った.さらには,次年度に向けて,九州北部周辺に前線が停滞し高湿度の大気が前線に向かい流れ込んだ降水イベントの定量的な選定手法の開発に向けた情報収集及び技術の習得を行った. これらの変更点を加えたことにより,再現計算に関して降水イベントによっては年度計画で予定していたほどの領域大気モデルのパラメータの組み合わせを試せなかった.しかしながら,想定の範囲内であり,また変更による計算精度の向上及び最大化手法の高度化が既に得られかつ今後も期待され,当課題の計画全体としては概ね順調に進んでいると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は初年度で得られた結果を元に手法の改良・発展を行っていく.本研究の手順は,1)前線の影響により引き起こされた降水イベントの選定,2)各降水イベントの再現計算,3)各降水イベントにおける降水量の最大化,4)想定最大規模降水量の推定からなる.降水量を最大化する対象となる降水イベントの選定に関して,本研究では【1】前線性降雨により朝倉地域及びその周辺で豪雨が発生した降水イベント,降水強度は地形の影響を受けるため,過去に豪雨が発生していなくとも【2】九州北部周辺に前線が停滞し,高湿度の大気が前線に向かい流れ込んだ降水イベントの2種類を対象とする.初年度は2種類の降水イベント選定方法のうち【1】を行った.今後は【2】も対象とする.【1】に関しては,想定最大希望降水量推定には領域大気モデルによる高精度な再現計算が不可欠であることから,初年度に行った豪雨の再現計算の精度向上を目指す.特に十分な精度が得られなかった豪雨イベントに関しては,初年度は境界条件に用いる大気再解析データとして新しく公開されたERA5のみに注目したが他の再解析データなどを試す.また,【1】に関して統計的に十分な精度が得られた(初年度に既に得られている)豪雨イベントから順に,初年度で得られた知見を元に,数値実験により対象地域における降水量の最大化を行っていく.同時に,【2】に関してまず大気場を元にした豪雨イベントの抽出は天気図と大気データのプロットから視覚的に行う.その後,得られた知見を元により定量的な手法を用いて豪雨イベントの抽出を行う.そして,【2】に関しても再現計算を可能な限り行っていく.その後,全てのイベントに関して降水量の最大化を行い,最終的に対象地域における想定最大規模降水量を算定する.
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