2019 Fiscal Year Annual Research Report
Study for the Better PPP Urban Railway Projects in Asian Megacities
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19H02257
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
森地 茂 政策研究大学院大学, 政策研究科, 名誉教授 (40016473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲村 肇 東北工業大学, 工学部, 名誉教授 (50168415)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 都市鉄道 / アジアの大都市交通 / PPP / TOD / 事業スキーム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に挙げた第1の目的は、事業スキーム、需要、建設費、開業の遅れ、運賃設定の誤り、運営コストなどの顕在化したリスクの研究をもとに、リスク分析の方法を作成することであった。各路線のリスク分析についての成果として、昨年9月のスリランカでのアジア交通学会で特別セッションを開催し、7編の論文発表と討議を行った。我々の研究の成果として、ソウル、高雄、マニラ、バンコク、クワラルンプール、ニューデリーの6都市のPPPプロジェクトの事業スキーム、建設費、開業の遅れ、運賃設定の誤り、運営コストについての比較分析およびプロジェクト破綻の原因分析の論文と、マニラ、バンコク、高雄の都市鉄道PPPの財務分析の論文を報告した。 各国の財務諸表については、路線別のデータが得られず、その場合を想定しておいた方法、すなわち各種収入と費用項目についての推定方法の検討を行い、その精度的限界はあるものの本研究の最終段階であるモンテカルロシミュレーションの出発点としては利用できるとの結論に達した。 第2の目的である鉄道開業後の需要定着と交通機関分担の変化についての分析は、まず、①札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡、那覇の9都市圏、15路線について分析し、次に②駅別乗降人員のデータが時系列に得られた7路線について駅勢圏ごとの分析、そして、③より詳細なパーソントリップ調査データの入手できた仙台と福岡の2路線について鉄道整備前後の居住者の交通行動変化の分析を行った。 沿線への人口定着に15年以上の期間が必要なこと、開業前からの居住者と開業後に住み始めた人々では鉄道利用率に差があることなど想定した通りの事実が実証的に確認できた。 これらの成果をタイ、フィリピン、インドネシアの交通大臣、次官をはじめ専門家に説明し、さらなる助言を要請された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジア都市鉄道整備が進む一方で、財源不足から民間資金を活用したPPPプロジェクトを志向し、そのほとんどが財政的に破綻している原因を示し、意思決定者の誤った判断(誤解)を解消するための情報提供とよりよい事業スキームを提示するという本研究の第1段階として、およそ想定した成果が得られた。 多くのプロジェクトの破綻原因の分析については論文発表を行い、特別セッションの成功を受けて、アジア交通学会の正規の国際プロジェクトとして承認され、アジア10か国の研究者の協力体制ができた。また、路線別財務諸表が得られたのは3路線のみであったが、このような場合に備えて想定した簡易的方法すなわち、我が国のデータで、人キロ、列車km、車両キロ、路線長などから人件費、物件費などを推計するモデルをベースに、人件費、物価水準の差異をもとに各国の費用を、そして運賃格差と弾性値分析から収入を推定する方法を試みた。精度的には不十分ではあるがモンテカルロシミュレーションの初期値としては使えると判断した。 第2の目的の初年度のテーマとして、鉄道開業後の人口定着に長期間を要することの認識不足が、開業当初の経営破綻と沿線都市開発事業による収入に対する過度の期待をもたらしていることを立証するための日本国内プロジェクトの分析はほぼ終えることができた。 本研究の最終目標である事業スキームについては、韓国がPPPの失敗に対し、採用した新たな制度について文献調査を行った上で、ソウルと新首都世宗で政府要人、研究者と議論する機会を得られた。各国の制度や日本の制度と比較して特徴的な制度であり、本研究で我々が制度提案をする上で大変参考になる情報であった。 以上、初年度の研究成果、今後の研究体制、研究成果の実務への反映の3点において予定した程度の進捗は十分できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画の第1の目的については、各国の鉄道事業コストの推計の検討と、そのコストの分布と併せて各国におけるモンテカルロシミュレーション用のデータ整備を行う。 第2の目的については本研究の申請段階で挙げた、6項目のうち、①需要の時系列的定着と、④人口定着の時系列変化については昨年度ほぼ終わっているが、国内の各都市の需要と土地利用変化との関係、建設計画時予測値との乖離の分析を7月までには完成する。各国については、地区別人口データは得られないので駅別乗降人員の時系列変化から同趣旨の分析を実施する。駅別データが得られない国では路線別需要分析となる。 6項目のうち、②路線間内部補助については2路線を整備した仙台と福岡の財務諸表からの分析を試みる。⑥の運賃については、各国の所得水準、バス運賃等と合わせて分析するとともに、運賃改定の経緯についての国際比較分析を実施し、運賃弾性値の推計も行う。今後の所得上昇に合わせた運賃改定の可能性や、高所得者の鉄道利用の可能性の分析のための海外でのSP(利用意向)データの取得と分析を予定していたが、新型コロナによる行動制約の下での調査の意義と可能性の検討を、各国の研究者に依頼する。 残る2項目は最終年度に予定しているが、③鉄道事業と都市開発事業のバランスについては、当初阪急と東急の事業開始当初の財務諸表からの分析を計画していたものの、過去のデータの限界とその後の分社化と事業の多様化で時系列分析も難しいことが判明したので、近年の私鉄各社の事業別財務状況から、発展途上国の意思決定者に提示できる資料を作成することとしている。⑤財務分析モデルとそれによる事業スキームの検討は最終年度に行う。ただし、事業スキームについての各国での新たな展開として、韓国については、詳細の疑問点は7月までに解明し、我が国も含めた各制度の国際比較分析は今年度可能な限り実施しておく予定である。
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Research Products
(2 results)