2020 Fiscal Year Annual Research Report
分子レベル有機錯体解析に基づく流域での溶存鉄の起源・輸送機構解明
Project/Area Number |
19H02271
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤井 学 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (30598503)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
權 垠相 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10360538)
菊地 哲郎 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生産環境・畜産領域, 任期付研究員 (50453965)
伊藤 紘晃 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 助教 (80637182)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 自然有機物 / 質量分析 / 分子組成 / 分子同定アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度では、野外調査で採取した水・土壌試料から固相抽出操作により有機物質を抽出・精製し、FT-ICR MSにより高精度質量分析を行った。研究二年目では、数万のピークを含む各試料の自然有機物由来質量データを対象に、高い精度で分子組成を決定するため、計算アルゴリズムの改良を行った。具体的には、海洋科学分野等でこれまで開発されてきた有機分子フラグメントライブラリとの比較を中心とするアルゴリズムから、一般的な自然有機物から想定される各種元素比(炭素、水素、酸素、窒素原子等)に関する制約条件、ならびに炭素原子やヘテロ原子、ハロゲン原子安定同位体の質量差を考慮し、新たにネストループ型の分子組成決定アルゴリズム(TRFu)の開発を行った。TRFuアルゴリズムは、分子式が既知の8,719種類のNOM様新興有機化合物(質量範囲68 Da~1,000 Da)に対して、分子式適合率は94%であり、他のアルゴリズムと比較して高い精度を示した。さらに,TRFuアルゴリズムは,水生生物,土壌・堆積物,バイオ炭など起源を異にする35種類の自然有機物質から得られた合計76,880のUHR-MSピークに対して,最大99.1%の分子式適合率を示した。従って、ここで開発されたTRFuアルゴリズムは、水中で鉄錯形成する自然有機物の分子組成を決定するうえで、信頼性が高く実用的ツールであることが分かった。また、以上に加え、鉄-腐植物質錯体に対して行ったXAFSデータを解析し、鉄原子の第一近接元素についての情報(配位結合距離は0.2nm程度)から、有機物と鉄の結合においてFe-O結合に由来していると推測された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究二年目において、自然有機物由来の質量ピークから分子組成を高精度に同定可能なアルゴリズム開発を中心に実施した。次年度の研究では、本アルゴリズムを用いて、野外調査で得られた有機物試料の組成分析を行い、鉄錯形成する自然有機物の組成を高精度で同定する。また、実験により得られた結合様式を理論計算と比較することにより、実験結果の裏付けを行う。最終的には、各種土地利用や水環境において有機物と鉄の動態や消長について考察を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
「8.現在までの進捗状況」で示したように、今後の研究の方策として、本研究により開発したアルゴリズムを鉄と自然有機物の錯形成試料に適用することで、鉄に配位する有機物を高精度で同定する。さらに、理論計算により実験結果との整合性を検証し、最終的には土地利用や水環境における鉄と有機物の動態について考察する。
|
Research Products
(5 results)