2019 Fiscal Year Annual Research Report
下水汚泥焼却工程における閉塞トラブル発生メカニズムの解明と発生抑制対策の提言
Project/Area Number |
19H02277
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
貫上 佳則 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (90177759)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有吉 欽吾 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80381979)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 下水汚泥 / 融点 / 示差熱分析 / 熱力学平衡計算 / 元素組成分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度には、(1)「低融点物質の存在確認」、(2)「焼却灰の粒子性状分析」、および(3)「焼成試料に試薬を添加した模擬試料の作成方法の検討」を行った。 (1)では、実際に閉塞トラブルが発生しているA下水処理場を含む2カ所から定期的に試料を採取して焼成試料を作成し、示差熱分析(DTA)や元素組成分析等を実施して、融点、低融点化合物量を示すDTA曲線の垂下部面積、および元素組成の季節変動を比較した。その結果、A下水処理場の試料は、年間を通じて800~880℃で溶融する成分が含まれていることがわかり、特に秋期と冬期には融点が低下した。これに対して、閉塞トラブルが発生していないB下水処理場の試料は大半が1000℃以下では溶融しなかった。下水汚泥の焼却温度(850℃前後)からみて、下水汚泥中に低融点化合物が存在することが閉塞トラブルの主要な原因であることが判明した。また、熱力学平衡計算ソフトを用い、一部の試料に対して焼却温度条件における低融点化合物の生成予測計算を行い、数種類の低融点化合物の生成を推定した。 (2)では、一部の焼却灰に対して走査型電子顕微鏡(SEM)での粒子表面の観察と、X線分光分析(EDS)による粒子表面の元素組成を調べ、粉末粒子の表面が平滑であること、粒子表面の元素組成は全体の組成と大差がないことがわかった。また、電子線後方散乱回折(EBSD)による解析を試みたが、粒子表面の結晶構造を特定できる情報を得るには至らなかった。そのため、一部の焼成試料に対して粉末X線回折(XRD)によって結晶構造解析を試み、主要な結晶物の存在を確認した。 (3)では、元素組成と低融点化合物の生成との関係をより明確に把握するための模擬試料の作成方法を検討した。すなわち、試料と試薬の粉末同士を均等に混合するために振動撹拌機を用い、混合比率に応じた試料と薬品の最小量を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で示したように、(1)「低融点物質の存在確認」では年度当初の計画通り、実試料中に低融点物質が存在することと、その季節変化特性、および2カ所の下水処理場からの試料を比較することで、閉塞トラブルの発生に低融点物質の存在が大きく影響していることを明らかにできた。また、年度当初は予定していなかった熱力学平衡計算ソフトを用いた理論計算により、数種類の低融点化合物の生成を予測することができた。そのため、(1)については当初の計画以上に進捗したと判断している。 (2)では、SEMやEDSによる粒子の表面観察や粒子表面の元素組成は明らかにできた。しかし、粒子表面の結晶構造の解明のために試みたEBSD分析では、分析条件や評価方法など検討すべき項目が多く、計画段階で想定していた結果を得るには至らなかった。そのため、計画を一部変更して、焼成試料に対するXRD分析を行い、主要な結晶物の存在を確認できた。そのため、(2)については、概ね進捗したと判断している。 (3)では、試行錯誤により、焼成試料と粉末試薬とを均等に混合できる方法と、混合比率に応じた最小混合量を明らかにできたことから、 (3)については計画どおり進捗したと判断している。 以上を総合して、令和元年度は概ね順調に進捗したと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の令和元年度は、一部未達成ではあったが、計画以上に進捗した内容もあったことから、令和2年度には当初計画の一部を前倒しにして、 (4)「下水汚泥燃焼温度域での生成物の推定」と(5)「下水汚泥の無機組成の調整による閉塞トラブル防止策の検討」を実施する。(4)では、昨年度に得られたより多くの焼却灰や焼成物に対して、XRDと熱力学平衡計算ソフトによる予測計算を実施し、試料中に含まれる結晶構造物に関するより多くの知見を得て、元素組成比や粉末X線回折結果、融点、及び低融点化合物の生成量などとの関係を整理する。(5)では、閉塞トラブル防止策として、下水汚泥に何らかを加える方法(添加法)と、下水汚泥からリンなどの元素を除く方法(除去法)の2つの効果について検討する。 最終年度の令和3年度には、引き続き(4)と(5)を検討するとともに、(6)既存の判定評価式の適合性評価、を行うとともに、(7)合理的な閉塞トラブル判定法と判定基準の提案、を行っていく予定である。
|