2019 Fiscal Year Annual Research Report
構築と物質性に基づく西洋建築史・建築意匠論の再構築のための方法論的研究
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19H02328
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 耕一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30349831)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋建築史 / 建築理論 / 物質性 / 構築 / 時間性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、2018年度から続けてきた「10+1website」(LIXIL出版)での、隔月連載論文の後編となる6編を発表した。これにより「素材と構築」の観点による、建築史・建築理論研究の全12編の論文が完結した。この連載論文の公表自体は、本研究課題がはじまった2019年度に先立ち、2018年度から始めていたものであるが、この連載論文の全体の構想自体が、本研究課題と密接に関連するものであり、ここまでで当初の研究構想に基づく研究成果が出揃ったことになる。全12編からなる本連載論文では、 「素材性(マテリアリティ)」の概念について丁寧に論じたうえで、近代におけるファブリックとインテリアの問題や、アール・デコラティフの問題などを詳細に論じた。また「構築(テクトニクス)」の観点からは、古代から近代までの長い建築の歴史におけるコンクリートという素材とその構築方法、組積造建築における鉄の使われ方の変化、またフレーム構造という構築手法の近代性と歴史との断絶について論じた。また建築の表層(被覆)の素材性の側面と構築の側面を合わせて論じることも試みた。以上のように「構築と物質性」という、本研究課題の中心テーマである2つの観点から、建築の歴史と理論を論じる新たな可能性を示した上で、改めて建築の「時間性」の問題と、「構築と物質性」という2つの観点を結びつけることを試みたのが、この連載論文の全体像であった。2018年4月から2019年2月のあいだに全12編の論文として発表した以上の研究成果が、ここまでの研究実績の中心的な成果となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた通り全12回の連載論文が完結し、全体の内容から、本研究課題の重要性があらためて浮き彫りになった。これによって、当初の研究構想の全体像を一通り示すことができ、今後はこれに基づいて、さらに個別の研究を深めることと、全体の概念整理を進めて行くことが可能になった。今後の研究を進めるうえで必要な基盤が、1年目の研究成果として整ったことになるので、ここまでの研究成果はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
全12回の連載論文が完結したところで、2020年度については、これらの論文全体を改めて再編して1冊の書籍の形で公表することを目標とする。連載論文においては、個別の研究課題を次々に論じて深めていくことを試みたが、全体を通底するテーマであった「構築」「素材性」「時間性」の3つの観点から、改めて全体を再編することで、これらの概念により建築史や建築理論そのものを根底から再構築することを試みる。この作業が、まずは今後の研究推進の中心となるものである。 以上の概念的な研究に加え、実際のモノに即した研究としては、東京大学本郷キャンパスの建物を研究対象としたキャンパス・マネジメントを研究課題に加えていく。東京大学本郷キャンパスの建物群については、上記連載論文の第11回「建築の「時間デザイン」と「メンテナンス」という哲学」(2019.12)で論じたが、本研究課題を進める上で、この対象はきわめて重要であることが見えてきた。そこで、これを具体の研究対象に加えることで、本研究課題をさらに推進していく。
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