2021 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on Restoration and Promotion of Coating and Polychromy on Heritage Architecture
Project/Area Number |
19H02334
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
北野 信彦 龍谷大学, 文学部, 教授 (90167370)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 良子 嵯峨美術大学, 芸術学部, 講師 (00423062)
山田 卓司 龍谷大学, 文学部, 講師 (30435903)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40409462)
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 保存環境研究室付 (80370998)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 乾性油塗料 / 紫外線曝露促進実験 / カビなど生物劣化 / 防カビ剤 / 胡粉膠塗装 / 水溶性アクリル樹脂 / レーキ顔料 / 手板作製 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、伝統的な膠材料を使用した塗装彩色修理の場合、比較的早い段階でカビの発生や一部膠材料の脆弱化に伴う剥落現象などが発生したため、原因追及の分析を実施し、原因を突き止めた。また、膠材料を使用した胡粉塗や黄土塗も、施工後数か月以内に黒カビ発生で苦慮することから、①膠材料に防かび剤を混ぜる、②膠材料に水溶性アクリル樹脂を添加する、③撥水剤を表面コーティグする、などの復元手板を作成し、曝露試験を開始した。さらにチャン塗などの乾性油塗装についても高温多湿環境下では表面固化した塗膜層の戻りなどの問題も指摘されるため、荏油、桐油、さらには亜麻仁油などの配合比や乾燥促進剤としての鉛顔料の添加、塗装肉持ち効果のある松脂添加などの条件を変えた幾つかの復元手板を作成し、曝露試験を開始した。一方、文化財建造物の塗装彩色修理に日本 産漆の使用方針が提示されたものの、基本的な施工仕様が不明であった塗装修理後の紫外線劣化に対処した中国産漆と国産漆を使用した漆箔などの曝露試験手板の劣化実験を完了させ、その成果を検討した。その結果、特に漆箔手板の場合、紫外線の影響が強く出ると想定された厳島神社境内、大気汚染物質の影響が強く出ると想定された京都御所内、高湿度の影響が強く出ると想定された日光東照宮境内、いずれの手板試料でも日本産漆を使用した漆箔手板の方が中国産漆の漆箔手板に比較して残存状態が良好であることが明確に確認された。また、文化財建造物の塗装彩色修理に伴う基礎調査の成果を資料活用に役立てる目的で本派本願寺唐門の欄間木彫の三次元計測、環境劣化及び前回修理などの膠材料や合成樹脂材料の変退色劣化などが著しかった金峯山寺蔵王堂所蔵重文板絵馬や比叡山延暦 寺根本中堂天井板絵の塗装彩色に関する分析調査を実施し、表面に付着固化した油煙、埃汚れなどの汚染物質、稚拙な修理材料の有効的な除去方法などの検討も進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここ数年来、地球温暖化との因果関係は不明であるものの、夏季を中心とした気温上昇化と長雨もしくは多雨傾向に伴い、文化財建造物をはじめとする各種文化財のカビ発生や建造物部材における地蜂虫喰いなどの生物被害、乾性油塗装彩色の乾燥不十分による固化戻り現象などの不具合が問題となっている。一方、北野らの基礎調査では、日光東照宮陽明門や比叡山根本中堂などの文化財建造物には鉛系材料を乾燥促進剤とした油彩画技法やチャン塗技法などの乾性油塗料が多用され、これらの組物部材は鉛丹塗装、その他の軸部や小壁部材は胡粉塗装やベンガラ塗装などに塗り分ける事例も多く存在することがわかっている。本年度はこのような文化財建造物の劣化状況を精査し、カビや地蜂などの生物被害や乾性油塗装彩色の固化不十分などの不具合の程度と合成樹脂や防カビ剤の大量使用、鉛系塗装彩色材料の使用の有無・種類・含有比率の過多との間に何らかの因果関係があることもみえてきた。ところが、これまで各種文化財に鉛丹や鉛白、さらには密陀僧などの鉛系塗装彩色材料を使用した膠や乾性油塗装が古くから存在するため、それらを応用した各種手板作成をまず行い、そのうえで、比叡山延暦寺根本中堂の平成~令和期修理の施工に役立てることを目的に、覆屋内において、劣化促進実験を開始した。現状の結果からは、当初乾性油系のチャン塗塗装の場合、荏油・桐油・亜麻仁油を用い、その配合比率別の戻り状況のチェックを行っているが、荏油:桐油が1:1.6:4.4:6で作成した場合、桐油が多い方が良好なように感じられている。一方、紫外線劣化についてもレーキ顔料と乾性油による唐油彩色(日光東照宮仕様)の場合、手板野紫外線劣化促進実験では、色の違いによる差が明確に見られた。また、カビとの胡粉塗装との関係についても実験中であるが、防カビ剤の適切な使用、合成樹脂は逆効果の可能性など見えつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
これから5ヵ年計画の4年目に入るが、まずは伝統的な塗装彩色材料の再検討については、これまで問題点が指摘されてきた胡粉膠材料における黒カビ対策、チャン塗りなどの乾性油塗装における固化不十分による戻り現象対策を念頭に置いた新たな実験手板を作成するとともに、それらの曝露劣化推進実験を粛々と進め、そのデータ蓄積を図る。特に、鉛丹塗装の場合、光明丹と嵩高鉛丹では紫外線劣化で大きく状況が異なるようにむ見受けられたので、その原因追及も併せて実施する。次に、文化財建造物の塗装彩色修理に伴う基礎調査の成果を資料活用に役立てる目的で環境劣化及び前回修理などの膠材料や合成樹脂材料の変退色劣化などが著しかった金峯山寺蔵王堂所蔵重文板絵馬や比叡山延暦寺根本中堂天井板絵の塗装彩色に関する分析調査をさらに進めて実施する。このなかで、金峯山寺蔵王堂所蔵板絵馬の分析調査の成果は来年度に報告書作成を目指しているので鋭意進めるつもりであるとともに、表面に付着固化した油煙、埃汚れなどの汚染物質、稚拙な修理材料の有効的な除去方法などの検討についてもさらに作業を継続する予定である。また、擬洋風建築に使用された塗装材料に関する情報収集についても類例の分析調査をさらに進めるとともに、オイルペイントなどの伝統的な油性塗料の再現実験とその効果の検討なども今後進める予定としている。特に、本研究のなかで重要案件と位置付けている内容の一つは、現在塗装彩色修理が進められている比叡山延暦寺根本中堂に使用する有効な乾性油系塗装材料の選定がここ1,2年以内に具体的な成果が求められているためそのための実験はきめ細やかに進めていくつもりである。さらに、日光東照宮透塀の唐油彩色の紫外線劣化に強い塗装彩色材料選定のための実験をさらに進める予定である。
|
Research Products
(3 results)