2022 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on Restoration and Promotion of Coating and Polychromy on Heritage Architecture
Project/Area Number |
19H02334
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
北野 信彦 龍谷大学, 文学部, 教授 (90167370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 良子 嵯峨美術大学, 芸術学部, 講師 (00423062)
山田 卓司 龍谷大学, 文学部, 講師 (30435903)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40409462)
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 保存環境研究室付 (80370998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文化財建造物 / 塗装彩色材料 / 生物劣化 / スマルト / 鉛系顔料 / 紫色系彩色材料 / 有機染料系彩色材料 / 手板作成 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らによるこれまでの文化財建造物の塗装彩色材料に関する研究では、歴史的もしくは伝統的な材料は、問題が生じても除去が容易である乾性油・膠材料・漆塗料・柿渋塗料などを単体もしくは複合して使用するなど、それぞれの環境に適応した繊細な技術が存在したことがわかってきた。その一方で、変・退色が著しい有機染料系材料の調査方法の確立や劣化メカニズムの解明、凹凸のある欄間彩色・桐油彩色などの劣化状態には不明な点が多く、これらの正統な調査・保存・修理・資料活用は急務である。さらに近代建造物の造営や修復に使用された塗装彩色材料や接着材料などについては不明な点が多い。本研究では、各種文化財建造物における伝統的な塗装彩色材料・技術の正当な再評価を行った。そのうえでこれらを修理に応用した場合でも施工可能な方法の策定、これらの長所を生かした新塗料開発に向けての基礎資料の蓄積を図ることなどを目的とした調査研究を進めてきた。その結果、これまで無機顔料を使用した塗装彩色や金箔仕様、さらには乾性油系塗料(チャン塗や唐油蒔絵)などについては一定の歴史的変遷なども含めた成果が上がった。その一方で、吉野山金峯山寺蔵王堂内保管の紀年銘から江戸時代前期に作成されたことがわかる大船絵馬の彩色箇所のうち、無機分析では銅(Cu)のピークが強く検出される彩色箇所と、銅(Cu)と亜鉛(Zn)のピークが共存する箇所では双方ともに黒化劣化が著しかったがこれは昭和期の燻蒸処理による変色の可能性が指摘された。さらにわずかに色相が確認される顔料粒子の拡大観察の結果、前者は緑青(マラカイト)、後者は群青(アズライト)の岩絵具顔料の使用が想定されたが、それ以外の若干色相の異なる銅(Cu)と亜鉛(Zn)の両者のピークが検出される彩色箇所は、群青の青色色相に赤色顔料もしくは赤色の有機染料の赤色色相を混和して紫色彩色を獲得した可能性が指摘された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで4ヵ年にわたって進めてきた本研究では、当初は江戸時代以前の伝統材料や伝統技術のみを対象にした再評価を目的としてきたが、明治12年に造営された擬洋風建築として重要文化財指定の龍谷大学本館のペンキ塗装などの塗装彩色材料の基礎調査や大正12年の関東大震災の被災文化財として近代の修理が為された東京都立川市普済寺所蔵の国宝石撞の近代の修復材料などの調査も併せて行うことで、伝統材料・技術と当時最先端と目された新素材とのハイブリッド仕様の一端が解明できつつあり、近代の塗装彩色修理に関する基礎調査事例は少ないため新たな知見を得ることができたことは大きな成果である。その一方で、現在では塗装彩色修理の際、特に梅雨時などの高温・高湿度条件下では固化被膜表面の戻り現象やカビなどの生物被害が発生するため、適切な仕様策定が急務である乾性油塗装(チャン塗塗装)では比叡山延暦寺屋根銅板や日光山輪王寺相輪塔表面塗装では戻り現象などが起こらない適切な作業が行われていることが確認された。また、カビ被害が著しい胡粉膠塗装箇所や組物部材木口面などの地蜂巣穴あけなどの生物被害に対しては、伝統的な塗装彩色材料である鉛丹や鉛白などの鉛系顔料の使用が有効である点も確認された。現在、このような伝統材料の再評価を踏まえた塗装彩色修理に向けた仕様策定と、一部は実際の文化財建造物修理への適応を検討している段階である。また、日光東照宮などの霊廟建築で多用されている漆箔塗装修理に関連して、特に日本産漆塗料と中国産漆塗料の耐候性の違いを客観データの蓄積が急務であったが、少なくとも漆箔では、中国産漆塗料に比較して伝統縁付箔と日本産漆塗料の相性が良好である点も3ヵ年の曝露試験の結果で明らかになった。これらの一連の成果は、当初の本研究の目的以上の幅のある内容を含んでいると理解しているため、進捗状況の自己評価ではおおむね順調としている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は5ヵ年計画の最終年度のため、現在調査中の高湿度条件下におけるカビなどの生物被害に対応するために作成した胡粉塗りと漆箔唐油彩色、チャン塗塗装などの各種塗装彩色材料の手板試料の曝露試験をさらに継続するとともに、その成果を集計して纏めていく予定である。さらにこれまで実施してきた各種の取り組み研究成果については1冊の報告書として纏める。また今年度も現在調査継続中である比叡山根本中堂の塗装彩色材料の来歴変遷の調査と屋根銅板葺の黒色塗料の変遷調査、柏原八幡宮社殿・旧井伊神社社殿・滝山東照宮拝殿・日光山輪王寺慈眼堂社殿などの塗装彩色材料・技術の来歴変遷の基礎調査、近代の文化財建造物修理に使用された修理材料や漆喰・コンクリート・レンガ・鉄骨などの基礎調査も継続する。また石清水八幡宮摂社狩尾八幡宮社殿の赤色塗装材の来歴変遷調査、厳島神社社殿小屋裏などの部材の下塗りとして使用されている黒色塗料の分析調査などの調査は継続する。また、日光東照宮や使用金具の金箔仕様については、漆箔塗装、アマルガム鍍金・焼付漆仕様など各種手板を新たに作成して紫外線劣化などの耐候性に優れたものを選定して修復仕様に役立てるよう努力する。一方、昨年度から具体的な実験を開始した青色や緑色材料である天然岩絵具(アズライトやマラカイト)、各種新岩絵具、スマルトなどの人造顔料、嵩高鉛丹と光明丹などが高湿度条件下や紫外線劣化に対してそれぞれどの程度の耐候性を示すのかを知るための劣化促進実験の継続と纏めも今年度の調査内容としてタイムスケジュールを綿密に組んで実施する。これら本研究のなかで重要案件と位置付けている内容の一つは、現在塗装彩色修理が進められている比叡山延暦寺根本中堂に使用する有効な乾性油系塗装材料の選定が年内に具体的な成果として求められているためその実験成果の纏めと仕様策定はきめ細やかで速やかに進めていく予定である。
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Research Products
(5 results)