2021 Fiscal Year Annual Research Report
表層大気・ガスの特異な挙動の可視化と挙動メカニズムの解明
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19H02383
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
椎名 達雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80304187)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | LEDライダー / ラマン散乱 / 偏光 / ミー散乱 / 表層大気 / インタラクション |
Outline of Annual Research Achievements |
LEDライダーの新しい短パルス発振回路は、パルス幅を10nsから<5nsに、先頭出力は0.75Wから15Wにまで向上した。その結果として、信号対雑音比(SN比)は10dB以上向上し、より遠方のライダーエコーを高い分解能で得られるようになった。一方で、短パルスの高出力化によって、パルス発生時の電気ノイズも大きくなり、その遮蔽対策が必要になった。本年はその対策に、ホトンカウンタのトリガー信号を工夫し、これまでの電源ケーブルにトリガーケーブルを巻き付けて電磁誘導を使った方法から、送信光の一部をPDで受光する光学的手法へと変更した。その結果、電磁ノイズを大幅に軽減し、近距離での大気エコーを取得できた。 昨年に引き続き、LEDライダーの機能化を図った、Mie散乱、Raman散乱および偏光計測ライダーの同期計測を行い、粉塵の定量計測ならびに波浪の挙動計測を行った。 波浪計測では偏光計測ライダーを中心にして、波浪の形状を推測すべく、偏光解消比の変化について議論を行なった。Mie散乱ライダーとの同期によって波浪の周期とライダー信号光強度との相関に関しても考察を行なっている。Mieライダーでは時間変化に対する波浪エコーの現れ方が変化するように捉えられた。潮汐、風向風速に応じた変化であり、偏光ライダーとの相関を見て状況を解析した。 粉塵計測では、農場から巻き上がる粉塵をモニターした。農地上を狙って観測したMieライダーとその上空1.5m - 2mを狙って観測した偏光ライダーでは風向きによって異なる相関が得られた。風が強くなった際、偏光ライダーの大気エコーは減少し、Mie散乱ライダーの土壌カウントは増えている様子が確認された。これは地表に向けて風が吹き降ろすように流れたことが想定される。このことは同期して計測したパーティクルカウンタの動向を見ても確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は高出力化したことによる電磁ノイズの低減を図り、電磁ノイズの低減をはかれた。その結果として、近距離からの大気エコ―を得るに至った。同様の工夫によってMieライダーにおいても効果が認められ、2つの相関を得やすい結果となった。 改善したLEDライダーを用いた波浪計測、粉塵計測を行なった。いずれの計測でも局所的な挙動の把握を図った。計測では、Mie散乱、Raman散乱および偏光計測ライダーの同期計測を行い、相互のデータ解析を図るとともに、同時に計測した気象パラメータ(温湿度、風向風速)およびパーティクルカウンタによる測定値との相関を図り、低層大気の局所的な挙動の解析を図った。 波浪観測では千葉大学銚子実験場(海洋バイオシステム研究センター:千葉県銚子市)にて外海の波浪を観測した。潮汐、風向風速に応じた変化を捉え、LED偏光ライダーおよびMieライダーとの相関を見て状況を解析した。 粉塵計測では、岡山大学 津島キャンパス農場(フィールド科学センター:岡山県岡山市)にて、農場から巻き上がる粉塵をモニターした。LED偏光ライダーは水平方向の大気を観測し、Mieライダーは20m先の土壌を掠めて土壌の飛散を計測した。その結果、風が強くなると偏光ライダーの大気エコーは減少し、Mieライダーの土壌カウントは増えている様子が捉えられた。これは地表に向けて風が吹き降ろすように流れたことが想定される。このことは同期して計測したパーティクルカウンタの動向を見ても確認できた。 これまでの同観測システムでの定量的な評価と合わせることで、低層大気の局所的な挙動の把握が可能となる。LEDライダーの自給自立化に向けた機器開発では、ライダー、ホトンカウンタ、ならびにデータ取得用PCを含めて、みなDC電源で駆動可能である。ソーラーパネルと蓄電池による自給型の構成を組み、実働できることまで確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は表層大気の動的インタラクションの挙動アルゴリズムの解析を進める。 同期計測は本年進められた様式を拡大して観測に臨む。機能化させた各LEDライダーをそれぞれ同期計測し、Mie散乱波形/画像、Raman散乱波形/画像、および偏光成分波形/画像を生成させる。また、気象パラメータ(温湿度、風向風速、日照)の寄与を見るため、それぞれの時間変化を取得波形/画像と併せて解析する。表層大気の動的インタラクションへの風による影響、湿度による影響、ならびに日照による影響を計測環境や地形、浮遊媒体等で整理して考える。動的インタラクションの挙動は時間スケールと空間スケールの観点で扱う。 観測は定量観測、低層大気の局所的挙動観測の観点で遂行する。観測場所、観測対象を様々に検討し、上記課題の解析をすべく、観測データの蓄積を図る。 本研究のLEDライダーは機器の安全性と小消費電力、メンテナンスフリーを実現してバッテリー駆動が可能である。特に太陽電池と蓄電池を組み合わせた自立したシステムを構築することで設置場所を選ばず、監視カメラ型のシステムを開発することで現場への導入が可能である。今後遠隔制御を通してシステムの制御と観測を自動化を図る。 近距離大気、特に、表層大気を高分解能(0.15m)、高速(0.2s積算)で可視化させる技術は独自の技術であり、これまで可視化できなかった表層大気と地表面との動的インタラクションを可視化させる。挙動メカニズムが解明できれば、ガスだまりの移動や局所濃度の高騰といった危険回避、ダスト濃度モニタや操作、エリア開発構想・計画等への状況予測、さらには作業現場での安全・安心の保証といった現場監視に有効である。それらの応用に向けた技術として研究の確立を目指す。
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