2019 Fiscal Year Annual Research Report
環境調和型次世代太陽電池材料SnSの非平衡欠陥制御と薄膜のn型化
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19H02430
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
柳 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30361794)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川西 咲子 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80726985)
鈴木 一誓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60821717)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | SnS / 昇華法 |
Outline of Annual Research Achievements |
塩素添加n型SnS単結晶を用いたアニール実験で、単結晶から塩素が抜ける温度を確定させた。アニール温度300 ℃前後から塩素の減少が始まり、500 ℃以上では塩素濃度は0.2 at.%程度残っているがキャリア型はn型からp型に変わった。これまで製膜を500℃以上で行っていたため膜中の塩素が抜けn型化が困難であったことが明確になった。 キャリア濃度はアニール前の薄膜では4×10^18 /cm^3であったが、250 ℃のアニールで1桁以上減少し、2×10^17 /cm^3、移動度も114 cm^2/Vsから70 cm^2/Vsへと減少した。その後、450 ℃のアニールでキャリア濃度は~10^16 /cm3まで低下し、移動度も7 cm^2/Vsとさらに低下した。当初の予測としては、キャリア濃度と移動度は低温アニールでは塩素濃度に変化がないため単結晶の結晶性の向上、つまり欠陥の低下によりキャリア濃度と移動度が上昇することが期待されたがいずれも低下した。450℃ではすでに塩素濃度の低下が始まっており、この影響でキャリア濃度が減少したと考えられる。塩素が抜ける過程で欠陥を誘起し移動度も低下したことが推測される。 これと並行して昇華法によるSnS薄膜の製膜に取り組んでいる。膜中の塩素濃度を上昇させるため、昇華源に塩素添加SnSに加えSnCl2を混合した粉末を使用した実験では、膜中の塩素濃度をあげることはできず、塩素添加SnS粉末中の塩素量と膜中の塩素量にのみ相関関係が見られた。従って、昇華法によるn型SnS実現のためには高塩素濃度の塩素添加SnS粉末の使用と500 ℃未満の基板温度が求められる。 これまで育成したn型単結晶上に昇華法によるp型SnSを製膜してpn接合を作製した。このpn接合において整流性を観察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電気炉の温度勾配を利用した昇華法による製膜、単結晶を用いた製膜温度やアニール温度の適正温度の検討、新規導入した昇華製膜装置の立ち上げを行った。 電気炉の温度勾配を用いた昇華法による製膜では、膜中の塩素濃度を上げるために塩素添加SnSを昇華源とした製膜に加え、SnSとSnCl2混合粉を昇華源とした製膜を行った。この結果、膜中の塩素濃度に対するSnCl2の混合粉の影響はほぼ認められず、得られた薄膜はすべてp型であった。一方、昇華源とするSnS粉末中の塩素添加量を増加させると、薄膜の伝導型はp型ではあったが、膜中の塩素濃度を高めることができた。これにより得られるSnS薄膜のホール濃度を~10^18 /cm^3から~10^16 /cm^3まで低下させることができた。 昇華源の塩素固溶量には限界があるため、基板温度の最適化を行う目的で単結晶のアニールの実験を行った。現在の電気炉を用いた昇華法による製膜では、SnS単相膜が得られる基板温度は500 ℃であった。これに対し、塩素添加n型SnS単結晶のアニール実験ではアニール温度が400℃まではn型伝導を示したが500℃では塩素濃度の低下とSn:S比の変化のためp型伝導になった。つまり、n型SnS薄膜を得るためには基板温度を500℃未満にする必要があることが明らかとなった。 そこで、基板温度を低温に保つことができる昇華法による製膜装置を新規に導入した。この装置では石英ガラス製の昇華源をのせる台座を下から赤外線で加熱する一方、基板は製膜後すぐに赤外線照射エリアから移動させることができるため、基板温度の上昇を抑えることができる。現在は装置の動作確認を終え製膜条件の最適化を行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
昇華法によるn型SnS薄膜実現するための重要な製膜条件として基板音誤が挙げられることが単結晶のアニール条件で明確になった。現状の電気炉の温度勾配を用いた昇華法による製膜では、SnS単相膜を得るためには500℃以上の基板温度が求められたが、その温度でn型伝導を得ることが困難であり、製膜温度の低下が大きな課題である。今年度予算で新規導入した赤外線過熱による昇華製膜装置では、下方から赤外線を昇華源に照射することで昇華源が赤外線を吸収して温度が上がり昇華し製膜される。このまま基板を昇華源の真上に長時間おいておくと製膜されたSnSが赤外線を吸収して膜の温度が上がってしまう。そこで導入した装置では製膜後ただちに基板を赤外線照射エリアから移動させることができる構造になっている。これにより製膜後に薄膜の温度上昇を抑え、n型化するに十分な塩素濃度を膜中に維持することを実現させる。一方この手法では製膜中の基板温度が低いため得られる薄膜の結晶性が悪くなることが懸念される。この点は、得られた薄膜をRTAアニールすることで解決を目指す。今回導入した昇華装置により高真空下でのRTAを実施することができる。また、既存の装置を使えば雰囲気を制御したRTAを実施可能である。新規導入した昇華装置による製膜条件の最適化とRTA条件の最適化によりn型SnS薄膜の実現を目指していく。また、今回導入した昇華装置は真空を介して高電子分光装置と接続されており、作製した薄膜を待機暴露せずに電子状態の測定が可能になっている。SnSの電子状態に製膜条件どのような影響を及ぼしていくかについても今後明らかにしていく。
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Research Products
(4 results)