2020 Fiscal Year Annual Research Report
環境調和型次世代太陽電池材料SnSの非平衡欠陥制御と薄膜のn型化
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19H02430
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
柳 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30361794)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 一誓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60821717)
川西 咲子 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80726985)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | SnS / 薄膜太陽電池 / フラッシュ蒸着法 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの電気炉を用いた昇華法では、製膜した膜中から塩素が離脱する課題があり、最大でも約0.08 at.%しか膜中に塩素が残らなかった。これに対し、n型伝導を示したSnS単結晶中の塩素濃度0.14 at.%に比べて約半分の値であり、薄膜中に如何に多くの塩素を残留させるかが課題であった。塩素の離脱の主な理由は、電気炉による加熱では四方から加熱されるため、製膜中に膜の温度が上がり塩素が離脱すること、製膜後の冷却過程の冷却速度が遅いことなどが挙げられる。これらの課題を解決するために、原料のみの加熱が可能であり、製膜後速やかに冷却できるフラッシュ蒸着法による製膜を試みた。このフラッシュ蒸着法の装置では石英ガラス製の原料皿に塩素添加SnS粉末を置き、赤外線ランプで発せられた光を回転楕円鏡で石英ガラスロッドに集光し、原料皿の下面から石英ガラスロッドで原料を加熱する方法を取る。これにより原料のみが加熱され、基板の温度は低温に維持できる。また赤外線ランプを切ることで急冷が可能である。これまでに様々な製膜時間、原料基板間距離、基板温度で製膜実験を行った。これまでに得られた最大の膜中塩素濃度は1.82 at.%であり、n型SnS単結晶中の塩素含有量以上の薄膜試料が得られた。現時点までn型伝導の実現には至っていないが、高抵抗試料の薄膜は得られている。他の測定結果から類推されるこの薄膜試料のキャリア濃度は10^10 cm-3 であり、真正半導体の値とほぼ一致する。製膜条件のさらなる最適化や事後処理条件の最適化によりフラッシュ蒸着法によるn型SnS薄膜の作製が射程圏内に入ってきたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
赤外線ランプと赤外線導入ロッドを組み合わせて作製した真空フラッシュ蒸着法による製膜装置で塩素添加SnS薄膜の作製に取り組んでいる。基板間距離、原料の加熱温度、原料の設置料などを最適化した結果、塩素濃度が最大1.82 at.%の薄膜が得られた。これはこれまで近接昇華法で得られていた薄膜中の塩素濃度の約2倍の値であり。n型単結晶SnSの塩素濃度(0.14 at.%)を超える値である。欠陥によるホール生成を抑制できればn型化が十分に期待できる成果である。Hall測定が実施できた薄膜は全てp型伝導を示した。しかし、ホール濃度が3x10^15 cm-3と低い値の薄膜を実現することが出来た。これと非常に近い膜質の薄膜試料では電気伝導度が5桁低い値を示した。移動度が前述の試料と同程度であると仮定すると、キャリア濃度は~10^10 cm-3と見積もることが出来る。これはバンドギャップが1.1 eVのSnSが真正半導体であるときに室温で得られるキャリア濃度と一致する。つまり、欠陥による生成したホール濃度とCl添加で生成した電子濃度が拮抗した薄膜試料が得られた可能性がある。薄膜作製条件のさらなる最適化や事後処理条件の最適化によるn型薄膜実現への道が見えてきたと言える。また、これほど低いキャリア濃度の試料はこれまでSnSでは実現していない。高効率薄膜太陽電池を実現するためにはn層、p層中のキャリア濃度を一定程度以下に抑制する必要がある。このキャリア濃度抑制についても一定の方向性が見えてきたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
フラッシュ蒸着法により製膜した薄膜においてn型化に必要な塩素濃度を実現した。今後の課題は電子を補償する欠陥由来のホール生成を抑制することである。製膜条件の最適化や事後のアニール処理などで欠陥濃度の低下を図っていきたい。 またこのフラッシュ蒸着装置は光電子分光装置と超高真空を介して接続されている。フラッシュ蒸着法により得られた薄膜を、超高真空中を搬送することで光電子分光測定装置に移動させ光電子分光測定を行い、薄膜表面のSnの電子状態などを明らかにすることで欠陥生成メカニズムについて理解を深めていく。さらにpnホモ接合の実現に向けた研究にも取り組んでいく。pnホモ接合界面作製の際に光電子分光測定と製膜を繰り返し行うことで界面における電子状態を解明し、SnやSの電子状態などを明らかにしていきたい。これらの研究を通して欠陥密度の低い良好な界面を有するpnホモ接合を実現し、SnSによるホモ接合太陽電池を実現していく。
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Research Products
(7 results)