2019 Fiscal Year Annual Research Report
Physico-chemical stabilization of surfactant-free solid dispersion and improvement of aqueous dissolution of water-insoluble drugs
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19H02499
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
今村 維克 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (70294436)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | solid dispersion / amorphous sugar / drying / surfactant-free / hydrophobic drug / glass transition |
Outline of Annual Research Achievements |
予め非晶質化した糖はmethanolなどの有機溶媒に一時的に高度に溶解する.この現象を利用し,難水溶性の薬剤を界面活性剤や両親媒性高分子を用いること無しに糖類アモルファスマトリクス中に分子レベルで分散包括することができる.しかし,有機溶媒から乾燥固化した糖アモルファスのTgは水溶液から乾燥したものに比べ数十℃低く,難水溶性薬剤の溶解性にも改善の余地が大きい.申請者らは,疎水性薬剤としてindomethacinおよびcurcuminを取り上げ,(1%w/w) surfactant-free固体分散試料を調製し,種々の条件で熱処理を施した.その結果,熱処理によりsurfactant-free固体分散体のTgを大幅に上昇した.また,調製および熱処理した試料を精製水(37℃)に添加・溶解したときの疎水性薬剤の溶解薬剤濃度の経時変化を測定・比較した.その結果,薬剤としてindomethacinを用いた場合は,熱処理により溶解直後の到達溶解濃度は弱冠低下するが,その後の平衡濃度への低下漸近が顕著に緩やかになった.逆に,curcuminのsurfactant-free固体分散試料を加熱すると,到達溶解濃度は低下し,溶解濃度の低下も加速されることが分かった.フーリエ変換赤外分光分析により分子間相互作用を詳細に解析することで,アニーリング時における糖分子のコンフォメーション変化(弛緩)が示唆され,これが糖アモルファスの物理的安定性の向上および難水溶性薬剤の溶解性の向上の原因であることが示唆された.さらに同様な検討をibuprofenとその4種類の構造類縁体を用いて検証し,アニーリング効果とモデル薬剤の分子特性,とりわけ融点の関係について明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究グループは両親媒性物質を使用せず, 糖アモルファスと難水溶性成分のみからなる固体分散体 (SAS-SD) を作製する技術を開発した.この固体分散体は難水溶性成分の水溶性を高度に改善するが, ガラス転移温度 (Tg) が低く保存安定性に乏しいことが分かっていた.また他の固体分散技術と同様に, 難水溶性成分の溶解時間にも改善の余地が大きかった.これに対して,SAS-SDを難水溶性成分の融点以上の温度で短時間熱処理すると難水溶性成分の対水溶解性, Tgともに改善することを明らかにした.さらに30 ~ 200°Cの温度で保存 (annealing) したときのSAS-SDの特性変化を調査した.Annealing温度・期間の異なる難水溶性物質の固体分散試料を作製し, それらの溶解挙動を測定したところ,最大の到達溶解度はannealing温度が高くなると低下するが,溶解を維持する期間が顕著に長くなる傾向が見られた.この難水溶性物質の溶解挙動の変化機構について基礎的な知見を得るためDSCおよびFT-IRにより固体分散試料の熱特性, 相互作用状態を評価した.まず, DSC測定より保存開始後すぐにTgの上昇が見られたが, その後一定になることが分かった.FT-IR結果より, annealingによって3300 cm-1近傍のOH伸縮振動由来のピーク波数 (νO-H) が高波数側にシフトすることが分かった.また, annealing温度が高いほどνO-Hが短期間で増加していた.これよりannealingすることで糖分子間の相互作用密度が緩和され, 糖分子がより安定な構造をとっていると考えられる.このことがSAS-SDの溶解性向上に関連していることが分かった.これにより,本研究の目的を概ね達することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,糖アモルファスと難水溶性の機能性成分からなるアモルファス固体分散試料を主にvacuum foam乾燥により調製してきた.難水溶性薬剤の水溶液に対する溶解特性および種々の物性変化を解析した.現在,トータル3種類の溶媒,10種類以上の糖,10種類の難水溶性薬剤を用いて検討を行ってきた.今年度までは材料の乾燥方法としては噴霧乾燥を取り入れる.まず,噴霧乾燥で乾燥試料が得られる条件範囲を明らかにする.糖および薬剤の偏析・結晶化が生じ,かつ,十分な乾燥度を得る乾燥条件を系統的に調査する.得られた噴霧乾燥条件範囲に基づいて,乾燥方法が異なる試料(糖および薬剤は同一)を調製する.比較する物性としては,水溶液に対する溶解濃度の経時変化(リン酸緩衝液を使用),ガラス転移温度(示差走査熱量計を使用),(糖)分子間水素結合の形成度(フーリエ変換赤外分光分析を使用.拡散反射法)を測定する.さらに糖とモデル薬剤の組成が物性に与える影響についても検討する.また.比較のため,固体分散材料の薬剤キャリアとして汎用されているpolyvinylpyrrolidone (PVP)を用いて試料調製し,SAS-SD固体分散試料の諸物性と比較する. 一方,SAS-SD固体分散試料の特徴として,annealingにより薬剤の溶解特性および糖アモルファスの物理的安定性の向上が分かっている.そこで,代表的なモデル薬剤,糖の組み合わせについて,vacuum foam 乾燥とともに噴霧乾燥で調製した試料を種々の条件でannealingを行い,物性変化の傾向と明らかにする.併せて,そのメカニズムについても踏み込んでいく予定である.
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