2020 Fiscal Year Annual Research Report
Electron heat engineering using graphene
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19H02542
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
守谷 頼 東京大学, 生産技術研究所, 特任講師 (30548657)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グラフェン / 赤外光デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンは六方格子を持った炭素原子一層のシートである。電子の比熱が小さく、さらに電子-格子間相互作用が弱いという特徴を持つ。そのため、グラフェンにおいては、格子の温度とは独立に、電子系の温度だけを上昇させることが可能である。このような、格子系を介さない電子系だけを用いた熱伝達の制御、さらにそこから派生する効率的な熱電変換素子の実現が本研究の目的である。 本年度は、電流を流したグラフェンからの黒体輻射の検出とその応用を目指し研究を行なった。電流を流すと、ジュール熱により、グラフェンの電子系は昇温される。電子-格子相互作用が小さいグラフェンにおいては、電子温度は格子温度よりはるかに高い値をとることができるため電子系の発熱による黒体輻射の効率が高いと期待される。我々は2つのグラフェンデバイスを同一基板上に距離10ミクロン話して配置し、一方に電流を印加し黒体輻射源とし、もう一方を熱電効果を用いた熱検出器として測定を行なった。黒体輻射源のグラフェンの熱輻射の影響により、熱検出器グラフェンが発熱される。その発熱量を測定することで熱輸送特性を評価した。結果として低温から室温の広い温度範囲において、グラフェンからの強い熱輻射の効果を示唆する結果を得た。 この熱輻射の効果を活用することにより、検出器側グラフェンの磁気熱電効果を観測することに成功した。磁気熱電効果の測定の結果、グラフェンのバンド特異点における軌道磁気モーメントの存在というこれまで未解明な物性を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標はグラフェンの電子系の発熱による黒体輻射の影響を評価することであった。そのために最初に構築したのが同一基板上に2つのグラフェンデバイスを配置し、一方を黒体輻射源、もう一方を熱検出器として2つのデバイス間の熱輸送を評価する実験であったが、本デバイスが予想以上に動作し様々な研究成果を得ることができた。特筆すべき成果は以下である。 1)2つのグラフェン間の距離が面内方向で10ミクロンであっても熱検出器グラフェンの顕著な発熱を検出することができた。これはグラフェンの熱輻射によるエネルギー輸送が予想以上に大きいことを示している。 2)測定の結果、同一デバイスにおいて熱検出器グラフェン内に大きな熱勾配が発生していることがわかった。この発見を活用することによりグラフェンの熱電効果を簡易的な構造で評価できることがわかった。 1)と2)の内容はNature communicationsという著名な学術雑誌に掲載された。 上記の結果は当初の2年目の研究計画の達成だけでなく、3年目に計画していた2つのグラフェンデバイス間の電子系による熱輸送の先駆け的な成果も含んでおり、予想以上に早く研究が進展していると結論ずけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は空間内で近接させた2つのグラフェンデバイス間の電子系の熱輸送を定量的に評価することを試みる。同一基板上に2つのグラフェンデバイスを配置し、一方を黒体輻射源、もう一方を熱検出器として2つのデバイス間の熱輸送を評価する。昨年度は面内で10ミクロン程度の距離を離したグラフェンにて実験を行なったが、今後は面直方向に積層させた構造において実験を行う。予想では、グラフェン間の距離が数ミクロンより近い領域において近接場での輻射によるエネルギー輸送の効率増大が期待される。異なるグラフェン間の距離をもったデバイスを作製し比較を行う。さらに、引き続きグラフェンを用いた赤外光検出器と赤外光源の特性評価を行い、応用への可能性も探索する予定である。
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