2019 Fiscal Year Annual Research Report
バイオシステムの多様な光制御を実現する新規機能性ポリマーの光応答物性
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19H02578
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
須丸 公雄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (40344436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 俊之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10248065)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光応答性ポリマー / 光細胞操作 / 光応答水溶化 / ニトロベンツアルデヒド |
Outline of Annual Research Achievements |
NBAポリマーコート層の光応答特性が、血清やカルシウムを含む細胞培養液中の成分の共存で徐々に低下するという課題について、現状のpNIPAAm主鎖に、N-tert-butyl acrylamide(NTBAAm)をモノマー成分として加え、照射前のポリマーをより疎水性とし、培地中の成分のNBA基へのアクセスを阻害することで安定化を図った。その結果、NBAモノマーが12mol%程度、NTBAAmを20mol%程度の比率で仕込んだ重合体が、細胞培養液中での光応答の維持安定性を向上させることを確認した。 さらに、光照射によって水溶化しないが水和性が向上する条件が見いだされているNTBAAm導入比率40mol%程度の条件で、光照射による培養細胞への光薬物リリースを検討、光照射により任意の箇所とタイミングで細胞に緑色蛍光を発現させることに成功しているfluorescein diacetate(FDA)に加え、細胞膜のカルシウム透過性を飛躍的に亢進する薬物であるイオノマイシンについて検討を行った。細胞内のカルシウムイオン濃度は通常極めて低く維持されている一方、細胞培養液中のカルシウムイオン濃度ははるかに高いため、細胞培養液中にイオノマイシンを添加すると、急激なイオンバランスの崩れによって細胞は死に至る。このイオノマイシンを上記NBAポリマーにブレンドした系について検討を行ったところ、局所光照射によって任意の箇所とタイミングで、培地中のカルシウムイオンを細胞内に流入させ、死に至らしめられること、カルシウムイオンを含まない培地中で同様の操作を行っても、細胞にダメージが生じないことを示した。これらの結果、本ポリマーとのブレンドにより、様々な薬物の培養細胞への放出を光で時空間制御できる技術の確立が実証された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討で、課題となっている培養液中でのNBAポリマーの光応答性低下は、特に細胞接着域においてより顕著に見られること、NBAポリマー層が薄い場合には、細胞が光剥離された箇所に、細胞接着域に沿った痕跡が残存することが観察された。このことは、細胞が接着面に向かって分泌する成分によって、その下にあるNBAポリマーが変質することを示すものであり、光細胞剥離性の安定維持が原理的に困難であることが強く示唆された。しかしながら、NTBAAmによってポリマー主鎖をより疎水性にすることで、安定維持特性が大きく向上、4日程度培養したあとの局所光照射と培地吹付けで、細胞を選択的に剥離除去させられることを確認することができた。 NTBAAm比率を上げたNBAポリマーについては、ただポリマーとブレンドした溶液をコートするだけで、暗所において薬物を安定保持(ケージング)する一方、光照射されると底面から培養細胞に薬物が放出・作用する新たな技術シーズを確立することに成功した。 またこのポリマーについて出願していた特許が登録に至り、本技術の高い新規性が認められ、早期審査請求などを行わない通常スケジュールでは異例の速さで権利取得することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
培養液中に長期間置かれたNBAポリマー薄層は、光照射によって完全には培養液に溶解しなくなってしまう一方で、ベース基材表面からゲル膜の状態で剥離する場合があることが観察されている。また、その剥離応答性には、ベースとなる基材表面の特性が大きく影響を及ぼすことが、これまでの検討の結果明らかになっている。 このことは、コート直後の光照射でパターン状に残存させてから細胞を播種、しばらく培養したのちに、残存NBAポリマーの剥離することで、ゲル状ポリマー薄層を足場とした様々な半立体的な細胞培養系が構築できることを強く示唆するものである。 2020年度は、当初予定の計画に加え、新しいバイオ応用への展開に向け、こうした細胞培養系の光操作を実現するための、ベース基材およびNBAポリマーコーティングを含む基材調製条件、パターン光溶解および細胞培養後の(部分)光剥離を含む操作条件の特定についても検討を行うこととする。
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Research Products
(8 results)