2020 Fiscal Year Annual Research Report
イオン伝導に着目したスピントロニクス機能の精密制御とその応用展開
Project/Area Number |
19H02586
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
近藤 浩太 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (60640670)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン伝導 / スピン-電荷変換 / スピントルク / 軌道ラシュバ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イオン伝導体をスピントロニクス素子に組み込むことで, スピントロニクス機能の精密な制御や, スピントロニクス機能を利用したイオン伝導体の物性評価の新手法の確立・新機能の発現を目指している。そこで、今年度は、マグネトロンスパッタ法を用いて代表的なイオン伝導材料であるガドリニウム酸化物GdOxの薄膜作製条件について調べた。空間反転対称性の破れに起因したスピン変換素子として、強磁性/非磁性金属(銅: Cu)二層膜上にGdOxを成膜した試料を作製し、スピン-電荷変換およびその電界変調を試みた。その結果、強磁性体/白金二層膜に比べて1/100程度の非常に小さなスピン-電荷変換が観測された。一方、同様の試料においてスピントルクの計測を行ったところ、白金よりもはるかに大きなトルクが観測された。また、数%だが、外部電界によって酸素をCu層へ注入した場合にスピントルクの強度が増強されることが分かった。これらのことから、今回作製した非磁性金属(Cu)/イオン伝導体(GdOx)界面では、近年、自然酸化したCuやCu/AlOxデバイスにおいて観測されている「軌道ラシュバ効果」に由来したトルク生成が起こっていることが推測される。興味深いことに、今回のGdOxを用いた場合には、これらの先行研究よりも数倍大きなトルクが発生するだけでなく、スピントルクの大きさが成膜するGdOxの膜厚に強く依存することが分かってきた。これは、スパッタ法によるGdOx成膜では、Cu層への酸素イオンのマイグレーションが従来の方法よりも強く起こり、軌道ラシュバ効果の発現に効果的に働いている可能性を示唆しているものと考えられる。そこで、本年度は、多層薄膜デバイスの断面観察(酸素分布検出)とスピントルクの対応関係を調べることで起源解明を行い、イオン伝導体による軌道ラシュバ効果の発現および制御の可能性について検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今回、非磁性金属層として選んだCu層の酸化がイオン伝導体(GdOx)のスパッタ条件(真空度・O2およびAr流量)によって劇的に変化することから、再現性がよい測定デバイスの作製に時間を要した。そのため、本来のスピントロニクス機能(スピン流-電荷変換機能・スピントルク生成)や、それを用いたイオン伝導の電気的検出などは、十分に研究を進めることができていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、強磁性金属/非磁性金属(Cu)/イオン伝導体(GdOx)三層薄膜において、効率的なスピントルク生成が可能であるが分かった。そして、GdOxの膜厚を制御することで、スピントルクの大きさを1桁以上変調できる可能性がある。そこで、今後、GdOx膜厚を系統的に変化させた試料を作製し、スピントルク計測および断面観察による酸素分布の同定を行う。これらの実験により、酸素イオン分布とスピントルクの相関関係を明らかにし、酸素イオン誘起の軌道ラシュバ効果の強度制御法の確立を目指す。
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