2019 Fiscal Year Annual Research Report
光誘起ドーピングによる局所電子状態制御 -トポロジカルpn接合の創出-
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19H02592
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
坂本 一之 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70261542)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内橋 隆 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (90354331)
黒田 健太 東京大学, 物性研究所, 助教 (00774001)
小田 竜樹 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30272941)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 局所ドーピング / スピントロニクス / 光電子分光 / 走査トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者がトポロジカル絶縁体(TI)Bi2Se3で見出したn型TIへの光誘起ドーピングは、光照射部にのみホールを注入してフェルミ準位シフトをナノメートルスケールの領域で自由に制御することができる新しいドーピング法である。これまでBi2Se3とBi2Te3でこのドーピング法を確認したが、どちらのTIにおいてもフェルミ準位をディラック点よりも完全に下にシフトするには至っていない。TIを用いた半導体スピントロニクスデバイス材料として期待されるトポロジカルpn接合の実現にはドーピングによりフェルミ準位がディラック点よりも下にあるp型トポロジカル絶縁体の創出が不可欠である。 そこで、光誘起ドーピングによってp型TIとなる候補物質としてTlBiSe2を選んだ。TlBiSe2はバルクのバンドギャップが大きく、ディラック点がバルクの価電子帯の直上もしくは直下にあるBi2Se3やBi2Te3と異なりギャップの真ん中に存在することから、デバイス応用に向いた試料であると言える。九州シンクロトロン光研究センターと韓国の放射光施設PALで水を曝露したTlBiSe2に光を照射すると40 eV以上のエネルギーの光ではホールドープによるフェルミ準位のシフトが観測された。まだ条件は確定していないものの、TlBiSe2のフェルミ準位をディラック点よりも下にシフトさせ、p型TIを作製することに成功した。また、Tl 5d、Bi 5d, Se 3s内殻準位を測定したところ、ドーピングによりTlとBiの内殻準位に変化が現れたとともにO 1sにピークの増大が観測された。現在は論文執筆に向けこれらの結果を解析している。 主課題以外にも、典型的なTIであるBi2Te3と磁性元素Mnにより磁性トポロジカル状態を有することが期待されているMnBi2Te4(0001)の表面電子状態をスピン・角度分解光電子分光より明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
n型トポロジカル絶縁体(TI)TlBiSe2への光誘起ドーピングにより、フェルミ準位をディラック点より上の状態から下の状態へ任意に調整できることを初めて実証した。ドーピングが光照射部のみで起こったことと、フェルミ準位がディラック点よりも300 meV程度離れているn型TIから50 meV以上離れているp型TIの作製に成功したことは、トポロジカルpn接合の創出に向けて大きな進展をもたらすものである。光誘起ドーピングのメカニズムに関しては、H2Oを吸着させたn型TIに光を照射することでホールをドープすることができることはこれまでの研究でわかっていたが、その閾値となる光エネルギーに違いあるという結果を得ている。これまで行ったBi2Se3とBi2Te3では表面最外層となるSeやTeの内殻準位を励起することでドーピングが起こっていたが、TlBiSe2ではSeの内殻準位よりも低い光エネルギーでドーピングが観測された。また、これまでの研究では光誘起ドーピングの鍵となる酸素吸着によって内殻準位のピークの半値幅が広がったのに対し、今回はTlとSeの内殻準位で同様のピークの広がりが観測されたものの、Biの内殻に関しては半値幅が狭くなった。これは同じ光誘起ドーピングでも今回の機構が過去のものと異なる可能性があることを示唆する結果である。これらの結果は当初の計画通りである。 主課題以外にも、磁性トポロジカル状態を有することが期待されている、ファンデルワールス反強磁性体MnBi2Te4(0001)の電子状態を測定したところ、交換相互作用とスピン軌道相互作用が表面電子状態へ影響を及ぼすことを示す結果を得ている。この結果は当初の計画以上の成果とあると言える。 n型p型が共存する試料の作製に成功したものの、その局所物性の測定は計画通りに進まなかったが、全体としておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、令和元年度に得た成果を基盤に課題を発展させるとともに、電気伝導測定によるトポロジカルpn接合の半導体スピントロニクスデバイスへの応用を探索する。具体的には、まず、光誘起ドーピングによりn型からp型に変化させることに成功したTlBiSe2の光誘起ドーピングがどの内殻準位励起によって起こるのかを明らかにするため、これまで用いた40 eV以下の光エネルギーでの光電子分光測定を行う。光誘起ドーピング機構の解明のために走査トンネル顕微鏡などの局所プローブ顕微鏡を用いて光照射前後の試料表面の原子構造を観測する。TlBiSe2の劈開面はSe層が島状のTlで覆われていることが知られているが、光照射後にこの表面の原子構造がどのように変化するかについての知見を得る。また、走査トンネル分光よりTlBiSe2表面の局所状態と、異なるエネルギーで測定した準粒子干渉像から局所バンド構造に関する知見を得る。これら原子構造と局所電子状態の結果に令和元年度に得た内殻準位の結果を加え、ドーパントである酸素原子の吸着位置とまだ明らかとなっていないドーパント活性サイトを決定する。これらの実験結果を理論計算より得た電子状態と比較することによってTlBiSe2の光誘起ドーピング機構を決定する。トポロジカルpn接合は、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターにてマスキングしたTlBiSe2試料に光を照射し、絶縁体領域と金属領域をパターニングして作製する。作製した試料の電気伝導測定を行うことで、同試料を用いた半導体スピントロニクスデバイスの実用化に向けた指針を示す。研究全体の総括と光電子分光測定は坂本が、電気伝導測定と局所プローブ顕微鏡による測定は共同研究者の内橋が、試料作製は黒田、理論計算は小田が担当する。
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Research Products
(12 results)