2022 Fiscal Year Annual Research Report
多波長テラヘルツパラメトリック発生を用いたシングルピクセルイメージング
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19H02627
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
村手 宏輔 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (50824645)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テラヘルツ波 / シングルピクセルイメージング / 非破壊検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
シングルピクセルイメージングとは、光に空間的な変調をかけることで単一画素の検出器でも二次元画像を得られる方式で、圧縮センシングと組み合わせることで少ない測定点でも画像を再構成出来る特徴がある。本研究では我々独自の波長可変テラヘルツ波光源である光注入型テラヘルツ波パラメトリック発生器(is-TPG)と、シングルピクセルイメージングの手法を組み合わせることで、広いダイナミックレンジを有する高速分光イメージングを目指している。 昨年度までに64ピクセルのイメージングを行い、遮蔽物越しであってもサンプル形状を把握できた。しかし、十分な画素数ではなく、またノイズも多く綺麗な画像とは言えなかった。そこで本年はマスクの変更及び実験系の改良により画質向上を目指した。これまで用いてきたアダマールマスクでは、マスク間の回折量が異なる影響を無視できない点や、銀ナノ粒子インクで印刷したマスクでは画素数を上げる≒ピクセルサイズを細かくすることによる印刷品質の悪化、マスク数増加に伴う物理的なサイズの制限(マスクを多くするとマスクの総面積が増えることによってステージによるマスク掃引が難しくなる)などがあり、解像度向上は容易ではなかった。そこで、マスクを1/4ピクセルずつ動かすことで擬似的に解像度を向上させるマイクロスキャニングの導入、及び回折による画質悪化の影響を最小限に押さえて解像度を向上させるために、従来とはマスク形状の異なる、Cyclic Hadamard S-masksと呼ばれるマスクを導入した。加えて、分光イメージング実現に向けた光源開発も進めており、is-TPGとチェレンコフ位相整合を組み合わせた新たな光源を開発し、10波長以上もの多波長テラヘルツ波発生を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までにシングルピクセルイメージングは実証済みであるが、まだ画質が十分と言えなかったことから前述の通り高画質化を最優先に行った。マイクロスキャニングは、マスクを1/4ピクセルずつ動かすことで擬似的に解像度を向上させる技術であり、円形のサンプルの概形をより正確に捉えることができた。ただ、あくまで擬似的であり、エッジが曖昧になってしまうことから、根本的にマスク形状の異なる、Cyclic Hadamard S-masksの導入を行った。これは循環アダマール行列から作成されるマスクであり、全てのマスクの空間周波数が同一といった特徴を有する。ゆえにマスク間での回折量の違いを揃えることができ、回折の影響を最小限に抑えられることから、解像度の高い画像が得られる。実際に従来に比べて15倍以上の約1000ピクセルまで高解像度化が実現し、エッジも正確に取得できるようになった。最大35dB減衰の遮蔽物越しであっても測定ができており、is-TPGと組み合わせたシステムの有用性を示すことができた。また、テラヘルツ波パラメトリック検出と他の熱型検出器の比較検討も行い、より高画質なイメージが取得できるシステムについて模索した。 以上のようにシングルピクセルイメージングの解像度を昨年から15倍以上向上でき、通常のテラヘルツ波イメージングと同等の画像が得られていること、また容易に10波長以上のテラヘルツ波を発生できる新たな光源を開発したことから、現在までの進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、単一周波数であれば銀ナノ粒子インクを用いたマスクによって遮蔽物越しであってもシングルピクセルイメージングによりサンプル形状を把握できた。また、マイクロスキャニング及びCyclic Hadamard S-masksの導入により、解像度の向上及びよりきれいな画像取得が実現した。光源としてもis-TPGの10波長以上までの多波長化が実現し、周辺技術の開発も進んでいる。今年度はこれら技術を組み合わせ分光シングルピクセルイメージングの本格的なデモンストレーションを目指す。 これまでにCyclic Hadamard S-masksの有用性は確認できているが、まだ解像度向上の余地が残ることから、まずはピクセルサイズの縮小及びマスク数を向上することで、さらなる解像度向上を行いたい。その上で、複数周波数でイメージングを行うことで、試薬の分布を可視化するとともに、これまで開発してきた多波長光源と組み合わせることで高速分光シングルピクセルイメージングを目指す。多波長発生では、これまでとは異なる方法を用いることで従来の限界を突破し、10波長以上のテラヘルツ波発生を可能としており、この光源とテラヘルツ波パラメトリック検出を組み合わせることで、リアルタイム分光が実現している。こちらを用いてシングルピクセルイメージングを行うことで、各マスク位置で瞬時に分光情報も得られることから、周波数変更が不要となり、分光シングルピクセルイメージングの大幅な高速化が期待される。加えて、その識別に機械学習の導入も検討し測定対象の高精度な識別を目指す。is-TPG本来の遮蔽物越しでも試薬の同定が可能な特徴も合わせ、他のシステムでは困難なイメージングシステムを実現したい。
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