2019 Fiscal Year Annual Research Report
Research of lithium-6 isotope enrichment technology by electrodialysis under special voltage profile
Project/Area Number |
19H02639
|
Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
佐々木 一哉 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (70631810)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向井 啓祐 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (70807700)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | リチウム / 同位体濃縮 / 電気透析 / 原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、基幹発電システムとして期待される核融合炉の実現への最大課題である、質量数6のリチウム同位体(6Li)の濃縮技術開発に資する。我々は、電気透析技術に基づく新たな6Li濃縮原理を考案し、これまで提唱されていた電気透析による1段の理論最大濃縮比率(1.08)を超える濃縮比率1.11を達成した。本現象が我々の推定する原理によるならば、1段の工程だけで極めて大きな濃縮比率を実現できることになる。 本研究の目的は、熱核融合炉用に要求される6Li濃度90% 以上を達成せしめる高効率なリチウム同位体濃縮技術の基礎を確立することである。主な目標は、①リチウム同位体濃縮原理の解明、②同位体濃縮方法と条件の最適化、③カスケード化による濃縮速度低下への対策の構築、である。 R1年度は計画に沿って①リチウム同位体濃縮原理の解明に注力した。電気透析の基本となる直流電圧連続通電を実施し、6Liと7Liの移動速度の温度依存性を調査し、同位体種による移動の活性化エネルギーに違いがあることを解明した。この発見は、電解質中の同位体ごとの移動(表面の溶解・溶出現象も含む)の速度を積極的に制御できる可能性を示唆した。当初考えていた一次側溶液側電解質表面への同位体の吸着現象の制御と合わせることで、1段の電気透析による同位体濃縮率を極めて大きくすることが可能であると予測させる成果である。そこで、リチウムの電気ポテンシャルを制御する影響の検討として印加電圧値による電解質中の同位体ごとの移動速度の積極的制御を試み、電気ポテンシャル制御による同位体濃縮率向上の可能性を示唆するデータを得た。また、これらの現象の機構解明を速度論的支持のために全反応素過程の反応インピーダンスを交流インピーダンス分光分析で評価し、二次側溶液へのイオンの溶出が律速過程であり電解質板中に局所的リチウムイオン濃度分布が生じることを推定できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R1年度の目標はリチウム同位体濃縮原理の解明することであり、電圧印加プロファイルを系統的に制御しながらリチウム同位体濃縮挙動を調べ、これらの全ての相関関係を総合的かつ定量的に考察し、最終的にリチウム同位体濃縮が生じる原理や支配的因子の解明することを目指した。これに対し、計画した系統的な実験検討は全て実施し、本原理解明に資するデータを得ることができた。これらのデータから、リチウム同位体濃縮が生じる原理や支配的因子の推定はできた。得られた知見は、研究計画当初に推定した同位体濃縮機構の他に影響が大きい別の機構が存在することを明らかにし、これらを総合すれば計画目標である同位体濃縮原理の解明を達成させるに十分である。 しかし、実験試料の個体差によるデータの絶対値のばらつきがみられ、疑義のない明確な結論を得るための再現実験の必要性を見出した。本再現実験は、すでに開始したものの、コロナ禍の影響による年度終盤時期の研究に制約が生じたため完了できていない。その結果、同位体濃縮原理を断定・解明するには至っておらず、論文投稿も遅れている。 一方で、R2年度の実施計画にある同位体濃縮方法と条件の最適化として得る予定の成果の一部を前倒しで獲得できた。電気透析温度、印加電圧などの適正値に関するものである。また、セル電極としては電解質/電極/溶液の三相界面長の長い構造とすることが有効であることも明らかにでき、最適なセル構造や電極の設計の方向性を見出すことができた。 これらを総合すると、R1年度は「おおむね順調に進捗している」と自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
●研究代表者(佐々木一哉/弘前大学) H31(R元)年度は、6Liと7Liの電気透析速度の温度依存性を調査し、低温ほど同位体濃縮率が高く、より高性能な電極の使用と合わせることで、20 ℃では連続的に2.0 Vを連続印加する電気透析でも同位体濃縮率1.085を達成できた。6Li+の方が7Li+よりLa0.57Li0.29TiO3(LLTO)電解質中のLi+移動の見かけの活性化エネルギー(Ea)が小さいことを確認しており、低温での大きな濃縮率はEaの違いに起因すると考えられる。また,印加電圧を小さくすることでリチウムイオンに与える電気ポテンシャルを減少させることが同位体濃縮率を上げたと考えられる。 R2年度の目標「同位体濃縮方法と条件の最適化」に向けて、はじめにセル電極の構造、温度、および印加電圧値の最適化を図る。一方で、我々は、先行研究で、電圧印加と中断を繰り返す断続的電気透析では連続的通電の電気透析より大きな濃縮率を得ている。つまり、低温の断続通電電気透析により大きな同位体濃縮率を達成できることが推定される。そこで、断続的電気透析の電圧プロファイルの最適化を実施する。最終的には、これらの最適化された条件を組み合わせて、大きな同位体濃縮率の達成を目指す。本検討においては、同位体濃縮速度やエネルギー収支も評価し、工業的な同位体濃縮の視点も加えた最適化を検討する。
●研究分担者(向井啓祐/京都大学) 実験研究による成果の裏付けとして、第一原理計算による計算科学研究等を実施する。種々の条件下でのLLTO中の6Li+と7Li+の拡散係数を算出する。電気透析時の、ABO3型ペロブスカイト構造のLLTO電解質内部に生じるLi+およびAサイト欠陥の偏析を予測し、微視的空間の格子定数サイズ変化を見積もる。また、高周波グロー放電発行分析によるLLTO内のリチウムの偏析の直接観察も試みる。
|