2019 Fiscal Year Annual Research Report
XFELと中性子ビームを用いたニトリルヒドラターゼ触媒反応の遷移状態構造の解明
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19H02667
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
尾高 雅文 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (20224248)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
當舎 武彦 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (00548993)
松村 洋寿 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (60741824)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遷移状態 / 反応中間体 / XFEL / 中性子構造解析 / 触媒反応機構 / 時間分解構造解析 / ニトリルヒドラターゼ / 翻訳後修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
酵素反応を理解する上で反応中間体の構造は本質的に重要である。しかし,遷移状態であることから,その立体構造を明らかにすることは極めて困難である。ニトリルヒドラターゼ(NHase)は単核非ヘム鉄を活性中心とし,ニトリルの水和反応を触媒する酵素である。本研究はXFELを利用した時間分解結晶構造解析と中性子構造解析により,NHaseの遷移状態構造解析を行うことを目的としている。本年度は,以下の研究を行った。 1) NHaseの中間体を補足するため,ニトロシル化された不活性型NHaseの結晶または溶液に基質を加えた後,レーザー光によってNOを解離させて活性化し,フラッシュフォトリシスを行った。しかし,光活性化に伴う吸収変化のみが観測され,反応中間体形成による紫外可視領域の大きな吸収変化は観られないことが予測された。次に,光活性化のNHaseと基質溶液を用いて,ストップトフロー解析を行った。その結果,ストップトフロー解析の限界よりも速い時間領域に吸収変化が観られるものの,その後は酵素と生産物複合体による吸収変化のみが観測された。以上の結果から,NHaseは遷移状態形成時に大きな紫外可視吸収変化を伴わないことが推定された。 2) XFELによるSFX測定を念頭に,30 マイクロm以下の微結晶を再現性良く得られる条件を決定した。また,SPring-8のシンクロトロン放射光を用いて,作製した微結晶で1.2Åレベル分解能の構造解析が可能であることを示した。 3) 中性子構造解析に向けた大型結晶を得るための条件検討を行った。その結果,0.07 mm3 (1.1 mm×0.8 mm×0.08 mm)の結晶を用いた中性子散乱強度のテスト測定において3.2Å分解能の反射を得ることができた。現在,より大型の結晶を得るために,結晶化条件の最適化とスケールアップを試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
反応中間体の補足のための分光実験はSPring-8または兵庫県立大学との共同研究をして進めており,令和元年12月から令和2年2月にかけて実施した。また,中性子構造解析は令和元年度に2回実施した。しかし,令和2年2月末以降,新型コロナウイルスの感染防止対策によって研究を自粛せざるを得なくなり,4月の緊急事態宣言以降,事実上,研究を停止せざるを得ない状況が続いている。また,共同研究先への移動もできない状態になっているため,測定を延期せざるを得ない状態になっている。緊急事態宣言が解除され,徐々に研究可能な状態に戻りつつあるため,研究を再会しつつある状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度以降は以下のように研究を進める。 1) 昨年度の成果から,NHaseは反応中間体形成に伴う紫外可視吸収変化は大きくなく,野生型ではストップトフロー解析の測定時間よりも早いフェーズで生じることが考えられた。そのため,反応速度が低下する変異体を用いて,ストップトフロー解析を行う。これまでに,βサブユニットのArg56をLysに置換したβR56Kでは反応速度が約1/500に低下することがわかっているので,この変異体を用いる。また,現在,QM/MM法解析から触媒反応に関与すると予測されている他の部位の変異体の構築も進めているので,これらについてもストップトフロー解析を行う。 2)フリーズトラップ法を用いて,直接X線結晶構造解析から反応中間体の解析を行う。これにより,反応中間体の構造をトラップできなくても,どの程度の時間軸で反応中間体を形成しているかに関する情報を得ることができる。 3)昨年度決定した条件でNHaseの微結晶を大量調製し,XFELを利用したテスト測定を試みる。方法としては,SFX法の他に,Fixed-target法も検討することとする。 4)中性子構造解析用にNHase結晶の大型化を試みる。基本的な条件は昨年度決定済みであるため,結晶化条件の最適化をさらに進めるとともに,スケールアップを行う。コロナウイルス感染防止対策による実験停止のために令和2年度前期のテスト測定には間に合わなかったので, 0.5 mm3以上の巨大結晶作製を目指し,後期のビームタイムにおいて,中性子散乱強度のテスト測定を実施する。
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