2020 Fiscal Year Annual Research Report
生命システムを支える非平衡自己組織化プログラムの機構と機能
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19H02668
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
並河 英紀 山形大学, 理学部, 教授 (30372262)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 反応拡散 / リーゼガング / 自己組織化 |
Outline of Annual Research Achievements |
均一なゲル媒体において反応種Aと反応種Bの沈殿形成反応を特定の時空間分布(C(A)=f (x, y, z, t), C(B)=f (x, y, z, t))にて発現させると、AとBの生成物Cが一定の規則性因子(α)で周期的析出する現象が発現する。これまでは自然界で発現する類似構造の周期性の中の極めて一部の構造しか再現できておらず、生命システムにおける反応空間媒体の不均一性・勾配を無視した均一ゲル媒体を用いたことが原因であること本研究では作業仮説として着目した。そこで今年度は、反応種濃度C(A) およびC(B)に加え、ゲル媒体の濃度の時空間的勾配C(G)=f (x, y, z, t))も制御したゲル薄膜を用い、生命システムを含む自然界に普遍的な規則性因子αの支配因子解明を目指した実験と、その反応拡散方程式の数値解析シミュレーション解析を実施する。その目的へ向け、C(A),C(B), C(G)の三つの変動因子と規則性因子αの関係性をゲル薄膜を用い実験的に明確化するとともに、成分A, B, C, X(=中間体)の全成分の濃度の時空間発展を記述した偏微分方程式を数値解析的シミュレーションに基づいて、αの制御を司る化学的因子の明確化を行った。その結果、作業仮説の通り、ゲル媒体の不均一性(化学的勾配)が発現する構造に重要な影響を及ぼすことが実験的に明らかとなり、また、数値解析的シミュレーションにより、その因子が核形成に対する時空間的な不均一性(勾配)に起因することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ゲル濃度分布の適切な調整が、LPの周期性を制御するための重要なプログラミング因子であることを実証した。ゲルの濃度分布は、濃度の異なるアガロースゲルを積層して構築した2層あるいは多層ゲルで制御した。二層ゲルでは例外的なLP周期性が局所的に形成され、さらに、RD シミュレーションにより、ゲル分布により変調された核生成過程が二層ゲルの LP 周期性を決定していることが明らかになった。最後に、この概念に基づき、多層ゲルにおいてゲル分布をプログラミングすることで、所望のLP周期性を実現することに成功した。このように、LPの設計における核生成の基本的な役割を深く理解することは、LPの実用化や自然界の自己組織化の理解につながると考えられる。以上より、着実に研究が進行していることがうかがえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの研究成果に基づいて、タンパク質系自己組織化と反応核酸系自己組織化について更に分子論的知見を得るための研究を展開する。神経変性疾患タンパク質の非平衡自己組織化では、アミロイドーシスの原因と考えられるAβペプチドの細胞膜への析出に関し、脳脊髄液の流動性を考慮した連続流通型マイクロ流路を用いた実験を行う。その際、流通速度あるいは循環速度が非平衡性を支配する実験的な制御因子の一つとなる。そこで、マイクロ流路あるいはフローセルを用いたAβペプチドの細胞膜への析出において、系の非平衡性を変調させた際のAβペプチド自己組織化挙動を実験並びに反応速度シミュレーションにより追跡し、場の非平衡性が神経変性疾患タンパク質の非平衡自己組織化に及ぼす影響を議論する。 また、反応拡散構造に対する非平衡性の寄与:申請者らのこれまでの研究により、均一なゲル媒体において反応種Aと反応種Bの沈殿形成反応を特定の時空間分布にて発現させると、AとBの生成物Cが一定の規則性因子(α)で周期的析出する現象が発現することが明らかとなり、生体内の脱髄疾患などの類似構造との対比へ向けたモデル構築が進められた。このようなモデル実験系において、場の非平衡性が反応拡散構造の選択律に対して与える影響を調査する。具体的には、系に印加する物質濃度勾配を連続的に変調させた際に形成する反応拡散構造の転移を実験的に確認し、得られた結果をエントロピー生成速度解析と比較する。以上の考察により、場の非平衡性が反応拡散構造を支配する背景に潜む熱力学的因子を明確化することを目指す。
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