2019 Fiscal Year Annual Research Report
スピン化学の手法を用いた励起子融合の詳細なメカニズム解明および新規材料開発
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19H02670
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
若狭 雅信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40202410)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢後 友暁 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30451735)
関根 あき子 東京工業大学, 理学院, 助教 (40226650)
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 三重項励起子融合 / Triplet Fusion / 磁場効果 / 統計リュービル方程式 / 強磁場単結晶分光測定装置 |
Outline of Annual Research Achievements |
三重項励起子融合(Triplet Fusion (TF))は,光の有効利用の観点から,基礎,応用を問わず近年国内外で注目されている。しかし,これまでに知られているTF 分子は,種類が限られるうえ,TF 過程のメカニズムも十分に解明されているとは言い難い。本研究では,他ではできない30テスラまでの強磁場下で,TF 過程の磁場効果を測定し,スピンダイナミクス,励起子ダイナミクスに注目した解析を行い,これらによりスピン化学の立場から,実験・理論の両面からTFのメカニズムを解明することを目的とする。さらに,得られた知見をもとに,新しいTF材料開発の指針を得ることを目指した。 昨年度は,(1)30 T強磁場単結晶分光測定装置の構築,(2)9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)のTF 過程の磁場効果測定,(3)試料の高純度化,(4)統計リュービル方程式(SLE)を用いた理論的解析などを行った。測定装置の構築に関しては,ps-LDパルスレーザーの導入により,種々の波長での試料励起を可能にした。次にDPAを用いて,高磁場領域(10 T)までの磁場効果を,異方性を含めて測定することに成功した。さらに,異方性も含めて磁場効果の測定結果をSLEを用いて理論的解析を行い,これらの解析から,TFで生成する三重項対に関して異なる距離にある(交換相互作用Jが異なる)複数の三重項対に関する立体的配置の情報が,直接的に得られることを明らかにした。今後は,反応系や反応場(薄膜やナノ細孔など)を増やすことで,新規TF材料の探索と開拓を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.30 T強磁場単結晶分光測定装置の構築:30 Tパルスマグネット(内径25 mm)中で溶液の過渡吸収を測定できる現有の装置を,単結晶の蛍光の磁場効果(強度および減衰)を,異方性も含めて精密に測定できるように改良した。具体的には,励起光として,ps-LDパルスレーザー(50 ps, 405 nm他)を2019年度予算で購入し,既存のシステムに制御系も含めて組み込んだ。さらに,異方性を測定するために,パルスマグネット用の回転ステージの設計を行った。 2.ジフェニルアントラセンのTriplet Fusion 過程の磁場効果:予備実験でTFからの磁場効果が観測された9,10-ジフェニルアントラセン (DPA)について,一重項-三重項励起(S-T 励起)による蛍光の磁場効果(強度および減衰)を測定した。三重項対のスピン変換とダイナミックは励起子間距離や配向,励起子の移動の方向などによって変わので,異方性についても検討を試みた。 3.試料の高純度化:DPA等はゾーンメルト法で高純度化し,Bridgman 法で結晶化させた単結晶を用い,X線結晶構造解析を行い結晶中の分子の位置関係を明らかにした。 4.統計リュービル方程式を用いた理論的解析:以前に開発した磁場効果を統計リュービル方程式(SLE)を用いて解析するプログラムを,さらにスピンの量子化学的挙動,励起子分裂・融合,励起子移動,励起子間の距離や配向,スピン緩和過程,磁場方向などを詳細に取り入れられるように一部修正を行った。この解析プログラムを用いて,いくつかの実験結果の詳細な解析を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降は,これまでに得られた結果を踏まえて,以下の研究を実施する。
1.30 T強磁場単結晶分光測定装置の改修:30 Tパルスマグネットに不具合が見つかったので,安定して高磁場発生が可能となるように,マグネット本体のビッター板を追加作成する。加えて,昨年度に設計した回転ステージを作成する。 2.9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)とその誘導体の磁場効果の異方性:上記で作成する回転ステージを用いて,Triplet Fusion (TF)による蛍光の磁場効果に対する異方性を詳細に調べる。 3.統計リュービル方程式を用いた理論的解析:昨年度に修正した統計リュービル方程式(SLE)を用いて磁場効果を解析するプログラムを用いて,上記実験で得られた結果を,異方性も含めて詳細に解析する。蛍光強度がdip状に変化する磁場では,スピン状態のレベルクロスによる特定のスピン緩和が起きている。そこで,磁場効果のdip測定からスピン緩和の詳細を明らかにする。さらに,TFでは三重項対の寿命が長いので,遠近さまざまな距離にある(交換相互作用Jが異なる)三重項対に関する立体的配置の情報も明らかにする。 4.種々の反応場を用いたTF過程の研究:DPAのS-T励起もしくはPtOEtによる三重項増感反応について,薄膜,メソポーラスシリカMCM-41,イオン液体などを用いて, TFの磁場効果を測定し,SLEで解析を行う。これらにより,反応場から見たTF効率向上のための知見が得られる。
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Research Products
(4 results)