2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of an electron correlation theory for excited states of molecular aggregates
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19H02675
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
倉重 佑輝 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (30510242)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子状態理論 / 励起状態 / 分子集合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は分子集合系の励起状態を高効率に記述する手法として,低ランク近似に基づく波動関数理論の開発を行なった。本来,分子集合系の励起状態は単分子の低励起状態を部分的な基底とする直積空間を用いて表現されるため,分子数に対して指数関数的に増大するところを,本手法ではテンソル積の低ランク近似による大幅な量子情報圧縮を実現した。これにより例えば,光合成光捕集アンテナ中のバクテリオクロロフィル分子ペアに対して本来は52電子を50軌道に配置する完全活性空間の計算になるのを,わずか5つの階数1の基底を用いた低ランク近似により単分子のQバンドに由来する励起状態をわずか0.005eVという化学的精度を満たす誤差で再現することに成功した。また,本手法の利点である分子数に対して低次の多項式オーダでしか計算量が増大しないスケーラビリティを生かして,分子有機半導体の代表的な分子群であるオリゴアセン分子集合体(十量体)の低励起状態の計算を8台の高性能計算機を並列に用いることで数時間で実行可能であることが確認できた。活性空間の効率的な対角化手法としての本手法の性質に加え,分子集合系の基底として用いられる階数1基底は局所励起の性質を持つため透熱表現の基底としても適当である。よって階数1基底による有効ハミルトニアンの行列要素は高精度な透熱結合を与えると考えられ,オリゴアセン分子の様々な複合励起状態間の透熱結合の分子配向や分子間距離依存性の定量を実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在において計画通り,分子集合系の励起状態を高効率に記述する低ランク近似に基づく波動関数理論の基礎開発を完了した。新規理論のプログラム実装ではプロトタイププログラミングによる新手法の精度に対する検討からはじめ,より高効率なプロダクションコードへの修正を行うと共に,将来大規模な分子集合体の計算を実行するための計算の能力とデータ記憶容量の確保のために複数の計算機をまたいで計算を行うような並列化実装をほどこすところまで完了できた。並列化実装の効率の検討においては112プロセス並列の中規模な並列計算においても,線形性を保った効率の良い並列計算が実現できていることが確認できている。これら十分な計算環境の整備を行なったことにより,分子有機半導体の代表的な分子群であるオリゴアセン分子の十量体という比較的サイズの大きな分子集合体への応用計算が可能な状況にある。また階数1基底の高効率な縮約密度行列の計算を実装することにより,活性空間での対角化に加えて活性空間そのものの定義に関わる,低ランク近似の元での軌道最適化が可能にするところまで完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に開発した理論は,活性空間モデルと呼ばれる手法で電子配置の組み替えが頻繁におこる価電子空間での強い電子相関を対象とするため,その空間内における有効ハミルトニアンの固有状態は定性的には正確十分な精度であるが,励起状態のエネルギー準位や安定構造の定量的な記述には不十分であると考えられる。よって化学的精度での記述には孤立分子系の場合と同様に,内殻電子軌道や高準位仮想軌道が関わる弱い電子相関を更に考慮する必要がある。そこで今後は開発した低ランク近似による集合系波動関数をゼロ次の出発点とする多体摂動論を開発し,高精度理論を完成させる。特に集合系の場合,参照とするゼロ次波動関数を構成する部分系の固有関数の内部次元が計算量の増加をもたらさないように,圧縮形式のままで計算するための工夫が必要であると考えられることから,ハミルトニアン期待値を部分系の密度行列の積に分解する計算手法を,一般の演算子の期待値の計算に拡張する計画である。
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Research Products
(4 results)