2020 Fiscal Year Annual Research Report
生きた脳の三次元イメージングを可能にする多光子励起化合物の開発
Project/Area Number |
19H02689
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
川俣 純 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40214689)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非線形光学 / バイオイメージング / 多光子吸収 / 2光子吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生体に対する光透過性が高い近赤外の波長域で、高効率な多光子励起・発光が可能、脳にダメージを与える有機溶媒を用いる必要がない高い水溶性、血液脳関門(Blood-Brain-Barrier, BBB)をクリアし脳内を自由に往来できる低分子量、アルツハイマー病やALSなどの神経変性疾患の原因物質とされるタンパク質凝集体に局在、の4つの条件をすべて満たす蛍光プローブの開発である。開発したプローブを用いて、マウスの脳全体を、マウスを死なせることなく、2光子励起顕微鏡で観察できるようにすることも、本研究の重要な目標である。 本年度は、前年度までの研究で開発した蛍光化合物を用いて蛍光ナノエマルジョンを開発した。この蛍光ナノエマルジョンを用いて生きたマウスの脳内の血流を観察したところ、白質層や海馬CA1領域を含む脳全体の血流を2光子励起顕微鏡により観察することに世界で初めて成功した。 従来の研究にも、脳深部の2光子励起顕微鏡像を撮影した例は僅かながらあるが、従来研究では一画面の撮像に1秒以上の時間を要していたため、脳の深部で生ずる生命現象のダイナミクスをとらえることはできなかった。本研究で開発した高輝度・高感度な2光子励起発光物質により、高深度の2光子イメージングが0.01秒程度の高速で行えるようになった。このことにより脳の高次機能を司る大脳皮質から海馬領域に至るまでの神経回路機能の観察が可能となったため、脳高次機能のメカニズム解明など、本研究が目指してきた課題の解決に向けた技術革新を成し遂げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で開発した蛍光物質により、本研究の主要な目的である生きたマウスの全脳のイメージングを世界に先駆け実現することができた。一方で、新型コロナウイルス感染拡大による移動の制限により、学会等での発表、共同研究の実施が十分には行えておらず、他機関と連携して進める計画だった研究は予定より進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究では、アミロイドβに局在しやすい化合物を見いだすことができた。また、2年目の研究では、蛍光ナノエマルジョンを用いる事で、マウスの脳全体の血流を2光子励起顕微鏡により観察できることが確認できた。今後は、アミロイドβに局在しやすい化合物によりナノエマルジョンを作製し、その分光学的性質を調べるとともに、生体試料を用いたイメージングを実証していく。
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