2019 Fiscal Year Annual Research Report
鉄フタロシアニン系分子性伝導体が示す巨大磁気抵抗効果を制御する分子設計の確立
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19H02691
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
松田 真生 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80376649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
花咲 徳亮 大阪大学, 理学研究科, 教授 (70292761)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フタロシアニン / テトラベンゾポルフィリン / ナフタロシアニン / 巨大磁気抵抗効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
ジシアノ鉄フタロシアニンFe(Pc)(CN)2からなる電気伝導性結晶は巨大な負の磁気抵抗効果を示す。その発現機構においてFeの局在dスピン(S=1/2)間の反強磁性的相互作用、および、π伝導電子と局在dスピン間の磁気的相互作用Jπdの双方が重要な役割を担っているが、本課題ではこれらの相互作用の制御を通して巨大な負の磁気抵抗効果を制御し得る分子設計の確立を目指している。 Fe(Pc)(CN)2には多様な分子設計の自由度が存在する。例えば、Pcをそれと類似した分子構造をもつ環状配位子に置換すれば、π伝導電子が存在するHOMO準位を制御できる。また、軸位の配位子置換は、局在dスピンが存在するd軌道準位の制御を可能とする。HOMO準位を上昇、d軌道準位を低下させる分子設計は、Jπdを弱化させ磁気抵抗効果を減少させることが期待される一方、HOMO準位を低下、d軌道準位を上昇させる分子設計は磁気抵抗効果を増大するだろう。 本年度はHOMO準位がPcよりも低い、C4h対称性を有するFe(1,2-Nc)からなる伝導性結晶の作製に取り組んだ。1,2-Ncには4種の異性体が存在するため、目的のC4h対称性の錯体を分離精製した上で軸配位子CNの導入。それに続いての伝導性結晶の作製条件探索を行った。分離・精製とCN導入を含め、伝導性結晶作製の過程には困難がいくつかあったが、今年度中に単結晶作製がある程度できるようになってきており、予備的な結晶構造解析の結果は、目的の伝導性結晶が間違いなくできていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
C4h対称性を有するFe(1,2-Nc)の合成において、単離・精製して得られたものの収率は非常に低く、Fe(1,2-Nc)(CN)2からなる伝導性結晶の作製は非常に困難であったが、予備的な結晶構造解析の結果から目的の伝導性結晶が得られていることが確認できるまでに至っているため「概ね順調に進展している」と判断した。電気伝導度測定・磁化率測定・磁気抵抗測定を実施するのに十分な質の結晶作製条件の探索を行っている。 また、初めて鉄が高スピン状態で得られたFe(tbp)Br2伝導体に注目して、他の中心金属・環状配位子・軸配位子の組み合わせから中心金属が高スピン状態となるその他の系の探索にも計算化学的手法を用いて取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
良質なFe(1,2-Nc)(CN)2からなる伝導性結晶を作製し、結晶構造解析・電気伝導度測定・磁化率測定・磁気抵抗測定を実施する。観測された磁気抵抗効果をFe(Pc)(CN)2伝導体のそれと比較し、磁気抵抗効果の変調がJπdや分子間相互作用の変化により説明できるかを考察することで、提唱している分子設計指針の妥当性を検証する。 また、鉄が高スピン状態であるFe(tbp)Br2からなる伝導性結晶において、鉄のスピン状態変化を期待した圧力効果の実験について検討すると同時に、中心金属が高スピン状態を採る新たなM(Mc)L2分子の設計と合成を行う。
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