2020 Fiscal Year Annual Research Report
レドックス制御作用機序解明を指向したペプチド由来生体反応活性種モデル系の創製
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19H02698
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
後藤 敬 東京工業大学, 理学院, 教授 (70262144)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機化学 / 生体モデル / 活性中間体 / レドックス制御 / 合成化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内のレドックス制御において重要な役割を果たしているセレノシステイン由来活性中間体は、極めて不安定であるためモデル研究すら困難であった。本研究では、巨大分子キャビティをペプチドのCradleとして活用することで、ペプチド由来活性中間体そのものを安定化できるCradledペプチドモデルの開発を目的としている。本年度、重要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)について、最近新たに提唱された失活抑制機構に関するモデル研究を行った。従来広く受け入れられてきたGPxの基本触媒機構において、鍵中間体であるセレノシステイン由来セレネン酸(SecSeOH)がどのように熱的な脱セレン化による失活を防いでいるかについては不明なままであった。これに対し、SecSeOHから環状セレネニルアミドへの分子内環化反応により脱セレン化を防いでいるのではないかというバイパス機構の存在が、最近仮説として提唱されている。今回、このバイパス機構の化学的検証を行うために、昨年度開発したCradledペプチドモデルを活用することで、近傍のアミノ酸残基がSecSeOHの分解をどのように抑制しているかについて、実験的に解明した。すなわち、Cradled Sec-Gly-GlyモデルのSecSeHに対し、低温下で過酸化水素を作用させ、SecSeOHをほぼ定量的に生成させた後に、昇温による変化を観測したところ、脱セレン化よりも速く環状セレネニルアミドへの分子内環化が進行することを明らかにした。また、この環状セレネニルアミドが、チオールとの反応によりセレネニルスルフィドへと変換され、バイパス機構から基本触媒機構へ復帰できることを示した。他の反応過程についても検証を行い、GPxの酵素機能について提唱されてきた基本触媒機構およびバイパス機構のすべての素反応過程を実験的に証明することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GPx触媒機構として提唱されている反応過程を検証するためには、鍵中間体であるSecSeOHを安定化可能であり、かつ近傍のアミノ酸残基の関与を解明できる、従来にないモデル系の構築が必要であった。今回、Cradled Sec-Gly-Glyモデルを活用することで、SecSeOHを安定に生成させた後に、関与する素反応過程の実験的検証を行うことができた。その結果、GPxの酵素機能について提唱されてきた基本触媒機構およびバイパス機構のすべての素反応過程を実証することに成功しており、順調な進捗状況と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最近、GPxが活性窒素種であるニトロキシル(HNO)により不活性化されることが見出され、その機構としてN-ヒドロキシセレネンアミド(R-SeNHOH)を中間体とする仮説が提唱されている。しかし、-SeNHOHという官能基を有する化合物は、生体系・合成系のいずれにおいても確認されておらず、化学種の存在自体に実験的な証拠がない状況である。本研究で開発したモデル系を活用することで、GPxと活性窒素種との相互作用に関するモデル研究へ展開する。
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Research Products
(7 results)