2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H02702
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣戸 聡 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30547427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヘリセン / バッキーボウル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究計画に基づき、(1) ヘテロ元素含有曲面π共役分子の積層構造構築制御、(2)アザバッキーボウルの新規合成法の開発、(3)アザヘリセンの置換基変換反応を用いた機能性の発現を目的として研究を遂行した。 まず、アザバッキーボウルと代表的な電子受容体であるペリレンビスイミド(PBI)を連結し、ユニット間で分子内電荷移動相互作用が存在することを見出した。さらに、吸収スペクトルが濃度依存性を示し、NMR測定の結果から、当初の目論見通り、分離積層構造の構築が示唆された。しかしながら、X線結晶構造解析では溶液中の結果と異なった積層構造が観測された。この結果はユニットに導入した置換基の立体的な制約が原因であると考えている。以上の成果は現在論文執筆中であり、近いうちに投稿予定である。アザバッキーボウルの新規合成ルート開発では、鍵前駆体の合成を主に検討した。その結果、高収率かつ短段階で合成できるルートの確立に成功した。 アザヘリセンでは、螺旋の内側の置換基を自在に変換できる手法の開発に成功した。この手法を用いて、様々な大きさをもつ置換基を螺旋の内側に導入し、アザヘリセンのピッチが置換基に依存することをX線構造解析と理論計算により明らかにした。さらに、その酸化状態において、吸収スペクトルが大きく変化することを見出した。理論計算から、吸収スペクトルの変化が螺旋のピッチ間に存在する空間的な相互作用に依存することを突き止めた。この成果はヘリセンの酸化状態における物性が螺旋のピッチという構造に影響することを初めて示したものであり、外部刺激応答性の発現など新たな機能創出に繋がる重要な知見である。本成果は現在論文投稿中であり、国内外の学会で発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度雇用予定であった博士研究員について、当該研究遂行に適する人材が見つからなかったため、研究を遂行する担当人員が減った。また、年度後半における新型コロナウイルス感染拡大の影響による対応のため、研究を遂行する実時間が減少したことも影響し、本来の目的である材料展開の糸口を見出すところまで至っていない。しかし一方で、雇用費を時間短縮のための消耗品費にあてることである程度補うことで、一定の成果を挙げることも出来ている。例えば、有用な前駆体の合成経路の確立や材料展開において重要な知見を得るという研究当初からは予期しないせいかを得た。今後はこれらの知見を踏まえて進めていくことで、目的達成のために更なる研究を加速する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は2019年度得られた知見を基に、主にヘテロ元素含有バッキーボウルの新規合成経路の開発とアザヘリセンを用いたヘテロ元素含有三次元π共役分子の機能創出を進める。具体的には、現在進めているアザバッキーボウル合成ルートを改善し、湾曲アルキンを形成しないルートで合成を進める。この新合成ルートでは2019年度で得られた合成のノウハウを充分に活かせるとともに、窒素だけでなくホウ素やリンなどの他のヘテロ元素を導入できると期待できる。これについては現在合成を進めているところであり、原料の合成に成功している。 アザヘリセンについては非対称に置換基を導入したアザヘリセンが固体中でJ会合をすることを予備的に見出している。これは、ヘリセンの三次元構造と置換基の立体的な制約によって引き起こされたものと示唆され、本研究でアザバッキーボウルで遂行予定であった、積層構造制御の目的に一致するものである。このアザヘリセンはアザバッキーボウルよりも合成が容易であることから、今後、この会合挙動について、温度可変の各種スペクトル測定を行うとともに、理論計算を組み合わせることによって明らかにする予定である。
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