2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19H02702
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣戸 聡 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30547427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アザヘリセン |
Outline of Annual Research Achievements |
非対称ヘリセンの新規合成法の開発と、π共役拡張による近赤外領域に発光・吸収をもつヘリセン多量体の合成を行った。まず、π拡張アザヘリセンをフッ素化試薬で処理することで選択的脱保護を行い、Pd触媒によるクロスカップリング反応により二量体の合成に成功した。この二量体をさらにフッ素化試薬で処理することで選択的脱保護が実現できることを見出し、続くクロスカップリング反応によりブタジイン架橋四量体の合成に成功した。UV/vis吸収スペクトル測定では、多量化に伴う吸収波長の長波長シフトが観測されたことから多量化によって共役が拡張していることが示唆された。興味深いことに、二量体、四量体ではNMRスペクトルおよび発光スペクトルで溶媒依存性があることが分かった。一方、発光量子収率は多量化に伴い増大し、四量体では61%であった。このような減少はπ共役多量体では珍しく、発光強度の増大は光化学特性に優れた螺旋分子材料の創出に繋がると期待できる。 また、非対称構造をもつπ拡張アザヘリセンの新たな合成法を開発した。非対称構造は分子同士の配列や光化学特性に顕著な変化をもたらすにも関わらず、非対称なヘリセンの合成法は確立されていない。今回、アミン架橋アントラセンをクロスカップリング反応で合成し、酸化することで非対称なアザヘリセンが得られることを見出した。この反応は窒素上に置換基が存在すると進まないことから、NHの存在がこの反応に必須であることを見出した。この手法を用いることで様々な非対称アザヘリセンを合成できると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は当初の実施予定であった材料特性についての研究について、コロナウイルスの影響による材料調達の関係から共同研究先との研究が滞ったことが挙げられる。昨年度見出したアザヘリセンを基盤とした材料特性の測定について、新たな測定機器が必要となったが、新型コロナウイルスの影響による半導体不足と、物質および人の移動が制限されたことによる共同研究のやりとりの遅延、人材確保の困難さから研究の進捗が遅れてしまった。さらに、新型コロナウイルスの感染防止の観点から大学および大学院講義の形式が二転三転して代わり、それに対応することに時間を追われたため、研究時間の減少をともなったことにも起因する。その中でも、螺旋分子の新しい合成法の開発や材料特性の測定の足がかりとなる薄膜化にも成功し、次に繋がると期待できる成果を見出している。その点で、「やや遅れている」との自己評価を下した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は2021年度実施予定であった、非対称アザヘリセンの積層様式の解明および薄膜作製による材料特性の測定を行う外、2021年度に見出した新たな非対称アザヘリセン合成法を用いた、大きく分極したアザヘリセン多量体の合成を試みる。共同研究により、非対称アザヘリセンの薄膜化を予備的に見出している。この薄膜において、分子の配列や基板との相互作用を粉末X線解析やIRなどの分光測定で明らかにし、自発分極を示す配列を構築するための適切な分子設計や最適な基板、薄膜生成条件を見出す。その上で誘電率や電荷輸送特性を測定し、螺旋構造の伸縮に伴う新たな特性を見出していきたい。 また、新たな分極アザヘリセンを合成する。螺旋の内側にハロゲン置換基をもつ非対称アザヘリセンを開発した手法で合成し、クロスカップリング反応によりアルキンで連結した二量体を合成する。この時異なる置換基をもつヘリセン同士を連結することにより、分極をもたせる。様々な組み合わせを検討し、大きな分極をもつ二量体の合成を目指す。この二量体においても薄膜化を行い、基板との相互作用や基板と結合する置換基を導入することによって、双極子モーメントの向きが揃うように基板表面に密に並んだ薄膜の作成を目指す。
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