2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Catalytic Organic Reactions Using Dynamic Behavior of Molecules
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19H02706
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大熊 毅 北海道大学, 工学研究院, 教授 (50201968)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 触媒的有機合成 / デュアル触媒 / 連続不斉反応 / 不斉水素化反応 / 異性化反応 / イソシアノ化反応 / 動的速度論分割 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.デュアル触媒システムによる連続不斉反応: 1) 光学活性デュアルRu触媒を用いるβ,β-二置換-α,β-不飽和ケトンのダブル不斉水素化に関して基質一般性の検証を行った。種々のアルキル基やアリール基を導入した基質から目的のanti-アルコールを最高99% ee、92% deで得た。2) デュアルRu触媒を用い、環状ラセミアリルアルコールの1,3-水素移動-不斉水素化連続反応による光学活性β-置換アルコールの合成において基質一般性の検証を行った。γ位にアルキル基やアリール基をもつ5~7員環基質から目的のcis-アルコールを最高98% ee、98% deで得た。 2.α-置換エステルとラクトンの不斉水素化反応: Ru-C型触媒を用いるラセミα-アミノエステルの動的速度論分割を経る不斉水素化の基質一般性を検証した。α位に4-メトキシフェニルアミノ基と各種アリール基が置換した場合に高い反応性とエナンチオ選択性が得られた。目的の2-アミノアルコールを最高97% eeで得た。 3.ケトエステルとヒドロキシエステルの動的不斉水素化反応: Ru/PICA型触媒を用いるラセミα-置換ケトエステル類の不斉水素化について、基質適用範囲の検討を行った。β-ケトエステル基質からはβ-ヒドロキシエステルが、γ-ケトエステル基質からは1,4-ジオールが高立体選択的に得られた。最高>99% ee、>98% deを達成した。 4.求核的アリル位/ベンジル位イソシアノ化反応: Pd(OAc)2を触媒とするアリル位イソシアノ化の基質一般性を検討した。γ位にアリール基が置換した基質から選択的に鎖状イソニトリルが得られた。脱離基をリン酸エステルとした場合に特異的に反応が進行した。また、触媒を酸化銀とすることで世界初の触媒的ベンジル位イソシアノ化に成功した。第一級と第二級のベンジルイソニトリル合成に適用できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナ禍の影響で、約半年の期間で研究室閉鎖、研究時間短縮の措置を取らざるを得なかった。また、研究に参画予定であった留学生の入国にも大幅な遅れが生じている。こうした状況下、研究の進捗に遅延が生じているが、得られた成果はいずれも当初の計画以上であったため、総合的に「概ね順調に進展している」の判断とした。 1.デュアル触媒システムによる連続不斉反応: デュアルRu触媒を用いるβ,β-二置換-α,β-不飽和ケトンのダブル不斉水素化と、環状ラセミアリルアルコールの1,3-水素移動-不斉水素化連続反応による光学活性β-置換アルコールの合成において、十分な基質一般性のあることがわかった。目的の生成物をそれぞれ、最高99% eeと92% de (計画>90% eeと>80% de)、最高98% eeと98% de (計画>90% eeと>90% de)で得た。 2.α-置換エステルとラクトンの不斉水素化反応: Ru-C型触媒を用いるラセミα-アミノエステルの動的速度論分割を経る不斉水素化において、基質一般性の検討を行った。検討事項を残しているが、生成物を最高97% ee (計画>95% ee)で得ている。 3.ケトエステルとヒドロキシエステルの動的不斉水素化反応: Ru/PICA型触媒を用いるラセミα-置換ケトエステル類の不斉水素化について、基質一般性の検討を行った。検討事項を残しているが、生成物を最高>99% eeと>98% de (計画>90% eeと>80% de)で得ている。 4.求核的アリル位/ベンジル位イソシアノ化反応: Pd(OAc)2を触媒とするアリル位イソシアノ化の基質一般性の検討を完了し、酸化銀を用いることで世界初の触媒的ベンジル位イソシアノ化の開発に成功した。生成物純度>99% (計画>95%)を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ禍の影響で研究の進行に遅延が認められるが、検討した項目はいずれも期待以上の成果が得られている。方針変更の必要性は認められない。以下に今後の推進方策を示す。 1.デュアル触媒システムによる連続不斉反応: 1) デュアルRu触媒によるβ,β-二置換-α,β-不飽和ケトンのダブル不斉水素化では、触媒は性質の異なる官能基を段階的に水素化するため、それぞれに適した構造を可逆的にとるはずである。化学種の同定、同位体標識実験、速度論実験等による反応機構解明を行い、仮説の検証を行う。2) 環状ラセミアリルアルコールの1,3-水素移動-不斉水素化連続反応を促進するデュアルRu触媒は異なる二つの反応に適した構造へ可逆的に変化すると考えられる。特定の反応中間体を取りやすい条件を設定して化学種を同定し、反応機構解明に迫る。 2.α-置換エステルとラクトンの不斉水素化反応: Ru-C型触媒は、ラセミ体α-アミノエステルの動的速度論分割を経る不斉水素化において高い活性とエナンチオ選択性を示す。その触媒機能はアミノエステルの立体的および電子的性質に影響されると考えられる。特徴的な構造をもつ基質の水素化実験やスペクトル測定等による反応機構解明を行う。 3.ケトエステルとヒドロキシエステルの動的不斉水素化反応: Ru/PICA型触媒は、従来のRu触媒ではできなかった各種ケトエステル類の効率的不斉水素化を可能にした。α-置換ケトエステル類の反応性と立体選択性を検証し、活性触媒種の解明を行う。 4.求核的アリル位/ベンジル位イソシアノ化反応: Pd(OAc)2を触媒に、シアン化トリメチルシリルを反応剤とすることで触媒的アリル位イソシアノ化に初めて成功した。触媒活性種の同定や、反応条件を変えた場合に得られる生成物の組成等の情報から反応機構解明に迫る。また、ベンジル位イソシアノ化の基質一般性の検討も実施する。
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Remarks |
化学工業日報記事掲載「不斉水素化触媒を新開発 医薬品向け受託合成も活況」 2020年6月11日(木)、第5面
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