2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H02708
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 昌巳 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00178576)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 泰志 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (10773963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機結晶 / キラリティー / 絶対不斉合成 / 動的結晶化 / コングロメレート / キラル渦光 / 不斉合成 / 不斉発現と増幅 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機結晶の特性を利用した新しい光学活性化合物の創出方法の開発を目的とする研究を遂行した。本手法はプロキラルな前駆体からのキラルな生成物を生じる反応と可逆反応等によるラセミ化を伴う動的結晶化による不斉増幅の融合により実現できる。これにより付加価値の高い物質群を簡便に創成でき,原始地球における僅かな不斉の偏りの発現から自然界の高度なホモキラリティーにまで進化した不斉増幅機構を解明する重要な成果が得られる学術的な研究でもある。 プロキラルな基質を溶液中で反応させ結晶化させるだけで,外的不斉源を用いることなく高い光学純度の光学活性生成物が得られる現象を見出した。この不斉発現・増幅現象は,プロキラルな化合物の反応によりキラル構造の生成物が生じること,同時に逆反応によるラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が系内で協働することで達成できる絶対不斉合成法である。 プロキラルなマレイミドと2-メチルフランを封管中で撹拌するだけで,90%eeのDiels-Alder付加物が得られる現象を見出し,複数の系での絶対不斉合成を達成した。さらに,マレイン酸とピリジンを水中で反応させることでアスパラギン酸誘導体の結晶が得られ,90度で懸濁撹拌するだけで不斉増幅が起こる現象を見出した。さらに,2-ヒドロキシアセトフェノンと芳香族アルデヒドを塩基存在下でアルドール反応をさせると,付加反応に続いて分子内オキサマイケル付加による環化反応が進行してフラバノンが生成する。封管中で反応させると,フラバノン結晶が99%eeの光学純度で生じる現象を見出した。前例のない複数の絶対不斉反応の開発に成功した。 さらに,キラル光(キラル渦光)照射と動的結晶化の協働による新しい不斉発現・制御・増幅法を開発した。すなわち,物理的な光のキラリティーを化合物の高度キラリティーへと転写・変換する前例のない不斉制御法の開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画であったプロキラルなマレイミドと2-メチルフランからの絶対不斉Diels-Alder反応,マレイン酸とピリジンからのアスパラギン酸誘導体の不斉合成,さらに,2-ヒドロキシアセトフェノンと芳香族アルデヒドからのフラバノンの絶対不斉合成を達成した。さらに,キラル渦光を用いた物理的な光のキラリティーを化合物の高度キラリティーへと転写では,イソインドリノンへの不斉転写と不斉増幅を達成した。さらに,メソジオールの不斉非対称化や絶対不斉ベンゾイン縮合,メソ糖の動的結晶化による不斉非対称化反応など多くの新しい反応系での予備的成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
外的不斉源を用いずにプロキラルの反応と結晶化の融合により,光学活性体を簡便に効率良く創出できる手法をさらに展開する。工業的スケールでの不斉合成にも応用でき,さらに,自然界のホモキラリティーの発現にも密接に関連する学術性と創造性に優れた波及効果の高い研究を推進する。 <研究1>新規反応による不斉発現・制御・増幅法の開発。この手法は,プロキラルな化合物を原料とし,不斉中心を形成する反応とコングロメレート結晶の動的な優先晶出を組み合わせるだけで達成可能であり,多様な反応系への展開が実現できる絶対不斉合成法である。研究期間内に,この不斉合成法を用いて,可逆的反応によるアミノ酸誘導体,前例のない糖類や医薬品中間体となる複素環化合物の絶対不斉合成へと広く展開し,本手法の有効性を実証するとともに,実用的な大量合成を視野に入れた反応と手法を実現する。この手法により,国内外を通じてチャレンジ性の高い独創的研究を推進する。 <研究2>キラル光の化合物キラリティーへの不斉転写の実現。進行方向に対して電場が垂直な円偏光や楕円偏向に対して,電場が螺旋を巻いているキラル渦レーザー光は物体に捻れを誘起させるトルク力を有する。本研究では,キラル渦光を用いて動的結晶化時に生成する結晶核や結晶成長のキラリティーを制御することにより,光のキラリティーを化合物のキラリティーへと高度転写を実現する前例のない研究を推進する。すでにイソインドリノンの溶液中からの動的結晶化の不斉制御には成功したので,多くの系での不斉制御を検討するとともに,アモルファスや結晶表面への光照射による不斉発現・転写・制御を達成する。申請期間内に結晶核生成や結晶成長に及ぼすキラル渦光の波長,巻数 (Lの数),円偏光の有無,強度の関連性を解明する。
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