2020 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamic Stereochemical Control of Halogen Bonding in Reaction Sphere
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19H02709
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
荒井 孝義 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (80272483)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯田 圭介 千葉大学, 大学院理学研究院, 助教 (70719773)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハロゲン結合 / ヨウ素 / 触媒 / 立体選択的 / 反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「触媒的不斉ヨードエステル化の開発」と「ヨウ素結合を用いる触媒的Povarov反応の開発」を行った。 「触媒的不斉ヨードエステル化の開発」では、世界で初めてα-メチルスチレンを用いる触媒的不斉ヨードエステル化に成功した。触媒的不斉ヨードエステル化にα-メチルスチレンのような安価で入手容易な単純アルケンとカルボン酸を用いることができれば、その工業的有用性が明らかである。しかしながら、α-メチルスチレンのような単純な基質の面選択を人工の触媒で制御することは極めて難しく、今まで触媒的不斉ヨードエステル化の成功例はなかった。実際に、我々が先に報告した触媒的不斉ヨードラクトン化に適した亜鉛三核錯体触媒をヨードエステル化に適用しても良好な結果を得られなかった。配位子、亜鉛カルボン酸塩、ヨウ素化試薬、反応条件など精査した結果、亜鉛二核錯体を開発し、芳香族カルボン酸を求核剤に用い、平面性の高いN-ヨードナフタレンイミド(NIN)を用いることで、良好な化学収率と不斉収率をもって目的のヨードエステル体を得ることができた。遷移状態解析により、金属カルボン酸塩、ハロゲン結合、水素結合、π-πスタッキングの4種の力が1つの触媒上で協奏していることを示すことができた。 一方、「ヨウ素結合を用いる触媒的Povarov反応の開発」は、昨年度までの研究において、2-ヨードイミダゾリニウム塩が、2-アルケニルインドールの二量化型・交差型 [4+2]環化付加反応を効率よく触媒することを見出した内容を発展させた研究である。2-ビニルインドールの触媒的二量化型[4+2]環化付加反応の系に対してイミンを加えることで、反応経路がPovarov反応へと切り替わることを見出した。これは、液相中においてC-I---π型よりC-I---N型のハロゲン結合が優先されることを立証した研究となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、活性ハロゲン化学種の高次構造の精密理解に基づき、その反応性の時空間制御を達成することで、高立体選択的なヨウ素触媒化学を樹立することを目指している。 昨年度までの研究で創出した亜鉛三核錯体を用いるヨードラクトン化は、世界最高の触媒活性と完璧な立体選択性で目的化合物を与えるものであり、計算科学による遷移状態解析でも亜鉛カルボキシレート(イオン結合)、ヨウ素結合、水素結合が協奏させている極めてユニークな触媒であることを示してきた。今年度は、さらに第4の力として、π-πスタッキングを組み入れることで、世界初の触媒的不斉ヨードエステル化に成功した。これは、極めて複雑な遷移状態も合目的に構築できることを立証した世界最先端の科学である。化学のトップジャーナルであるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載された本成果は、掲載号のカバーピクチャーに採用され、また国内外の新聞・Webなどで紹介され、高く評価された。 一方、今年度取り組んだ「ヨウ素結合を用いる触媒的Povarov反応の開発」は、単に触媒反応の開発に成功したのみならず、液相中においてC-I---π型よりC-I---N型のハロゲン結合が優先されることを確認した初めての研究であり、学術的に極めて重要な知見として、掲載誌においても高い評価を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究推進で培った「ハロゲン結合を基軸とする多様な結合力のネットワーク」を実験化学と計算科学の融合によって合理的に構築する手法を展開し、ハロエーテル化、ハロアミド化などの高立体選択的触媒反応の開発を行う。ハロエーテル化に関しては、亜鉛錯体触媒を用いることで、フェノール化合物を基質とするヨードエーテル化において中程度の不斉収率にて目的化合物が得られることを見いだしており、この知見を基に着実に研究を推進する。一方、より高難度のハロアミド化に関しては、電子密度の異なるアミン求核剤ならびにハロゲン化試薬を幅広く検証するほか、金属錯体触媒の再設計を行うことで効率的に触媒開発を進める。ここでは、原子効率に優れた反応化学を実現する新規ヨウ素試薬の創製も重要な課題として設定する。また、ヨウ素結合ドナー有機触媒の展開として、高原子化ヨウ素化合物の触媒への利用も包括することで、ハロゲン結合ドナー力の制御を可能にするプラットフォームを確立する。ヨウ素結合ドナー有機触媒の化学では、キラルなカウンターアニオンを用いる立体選択的反応開発も実施する。 さらに、これまでの研究で得られた光学活性ハロゲン化合物から特異な機能の創出研究を推進する。具体的には、重合開始剤としての利用やハロゲン結合によるキラル超分子の創製を目指す。
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