2020 Fiscal Year Annual Research Report
リン原子上キラルな四配位リン化合物を基軸とする合成化学の展開
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19H02712
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
村井 利昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (70166239)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 洋子 岐阜大学, 工学部, 教授 (50271523)
宇田川 太郎 岐阜大学, 工学部, 助教 (70509356)
今井 喜胤 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80388496)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | キラリティー転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素上にキラリティーを有する分子に加えて、炭素以外の典型元素化合物のキラリティー制御に関する基礎的な概念の構築や,実際の化合物群の合成、それら化合物の物質機能の解明と利用は、合成化学における重要な課題である。特に周期表第三周期以降の元素へのキラリティーの選択的導入により、光学活性配位子としての応用だけでなく、光学活性な酸あるいは塩基触媒、キラル分子の識別、生理活性の発現や、蛍光発光部位との組み合せによる円偏光発光の実現など、合成化学を端緒とした、生命化学や材料化学への展開を指向した多彩な機能創出が期待できる。そこで本研究では、P-キラルリン化合物を導く独自の反応開発をベースに、合成化学、生化学さらには材料化学分野でも、発展性のある低分子有機化合物群の提供を目指してきた。 具体的にはビナフチル基を有する四配位五価リン化合物を出発化合物として、われわれが世界で初めて発見したキラリティー転写反応を経たリン原子上キラルな光学活性化合物の一般的合成法の開発を基盤として、新しい分子キラリティーの世界を開拓している。ここでリン原子上には、単結合で三種類の異なる置換基を導入でき、また形式的二重結合を介して、三通りの元素すなわち酸素、硫黄、セレン原子を連結することができるため、数多くの誘導体を描くことができると同時に、それぞれを高効率、高選択的に導くことがここでの目的であり、実際にそれぞれの場合の反応条件の最適化を行ってきた。また一連のリン原子上での反応経路の詳細を、取りうるすべての中間体を自動的に発見できる GRRM法を用いた理論計算によって解析した。ついで得られた化合物群を基軸として光学活性ルイス塩基触媒を提供するとともに、得られた化合物群の毒性評価と細胞内シグナルタンパク質の挙動解析を経た構造活性相関に関する知見を蓄積してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リン原子上に、二つの異なる炭素置換基、一つの酸素置換基を単結合で組み込み酸素原子をリン原子上に乗せたP-キラルホスフィン酸エステルは生理活性を示す誘導体も知られている。例えばリン原子上に、ベンズオキサゾリル基、アルコキシ基、エチル基を有するホスフィン酸エステルの光学活性体は、筋ジストロフィー候補薬として注目されている化合物である。そこでこの化合物を標的化合物として、すでに開発した炭素求核剤によるビナフチル基を有するホスホン酸エステルのリン原子上でのキラリティー転写を伴う置換反応をベースに反応経路の開発を行った。すなわち得られたビナフチル基を有するP-キラルホスフィン酸エステルのビナフチル基を脱離基とし、アルコキシドを求核剤に用いたP-キラルホスフィン酸エステルの立体選択的な合成反応を開発した。 まずアルコキシドとして、Na塩あるいはLi塩を用いて、反応を行なったところ、いずれの場合もリン原子上での置換反応が進行し、ホスフィン酸エステルを高い収率で得た。ただしNa塩では生成物はほぼラセミ体で得られたのに対して、Li塩基を用いた場合、高い鏡像異性体比で生成物を得た。そこで塩基としてLi塩を用い、11種類の光学活性ホスフィン酸エステルの合成を行った。アルコールとしては一級、二級、三級アルコールを用いることができ、いずれの場合も高収率、高選択的に対応する生成物を合成している。さらに出発化合物と生成物のX線結晶構造解析の結果から、反応はリン原子上での立体反転を伴って進行することを明らかにした。加えてリン原子上に二つの異なるアルキル置換基およびベンジルオキシ基を有する光学活性ホスフィン酸エステルや先に記載の筋ジストロフィー候補薬である化合物を導くことにも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまではリン原子上に二つの炭素置換基を組み込んだP-キラル光学活性化合物の合成法の確立を目指してきた。それに対して今後は、リン原子上に二つあるいは三つの酸素置換基を有する光学活性物の合成を目指す。例えば3-フェノキシベンジルオキシ基、n-ブチル基さらにエトキシ基を組み込んだ化合物は、抗結核作用を示すことが報告されているものの、現状ではラセミ体のみであり、光学異性体ごとの活性の有無や効果は明らかにされていない。そこでその生理活性試験に供することができる化合物をはじめとする誘導体の合成法を提供する。 すなわちまずビナフチル基を有するリン酸エステル、チオリン酸エステルさらにセレノリン酸エステルの金属アルコキシドによるキラリティー転写反応を検証し、とりわけリン原子上に酸素あるいは硫黄を乗せた誘導体について、変換反応の条件最適化を行う。ついでアルコールとして一級から三級アルコールを用いて、反応効率を検証するとともに、その向上も行う。ついでキラリティー転写反応によって得られたジアステレオマー化合物からリン原子上がキラルな光学活性リン酸エステルの高効率、高選択的合成を目指す。さらに同様の条件最適化を、リン原子上に、炭素置換基一つを有するホスホン酸エステルのリン原子上での、二つの異なるアルコキシドによる置換反応でも行う。この際、二種類のアルコールを加える順番を入れ換えることによって、逆の絶対配置を有する光学活性ホスホン酸エステルを導くことも可能である。なお実際に化合物を得た場合には、生理活性試験を行うことができる生化学研究者へサンプルを提供し、その評価をしてもらう。さらにその結果をもとに、置換基と活性の相関も解明する。
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Research Products
(5 results)