2021 Fiscal Year Annual Research Report
Synthetic improvement of the basic principle for molecular hydrogenation catalysis of carboxylic acids
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19H02713
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
斎藤 進 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (90273268)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多価カルボン酸 / 水素化 / イリジウム錯体 / PNNP配位子 / アルコール / エステル / バイオマス資源脂肪酸 / 分子触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
多価カルボン酸の水素化を効果的に促進するIr錯体触媒の開発にも成功した。このIr錯体はPNNNP型配位子を有する配位飽和型の金属錯体である。より高温(160-200度)・高水素圧(4-8 MPa)条件下でもその頑健な触媒構造を維持できるため、酸素や窒素などで高官能基化され触媒毒になりやすい多価カルボン酸の水素化でも触媒活性を失いにくい。単素数がC2, C5, C6, C7, C8, C9, C13の二価カルボン酸を全て問題なく相当するジオールへと高収率で変換できた。一価カルボン酸も問題なくアルコールへと水素化できた。既存の金属錯体触媒を用いるエステルの水素化でMeOHを溶媒として用いた場合、触媒が失活することも多く見られるが、本系では(PNNP)Ir錯体の高度に嵩高い構造も手伝い、MeOHはむしろカルボン酸を系中でメチルエステルに変換するための有利な溶媒として使用できた。酢酸の水素化からエタノールを合成することも可能となったことから、お酢からお酒を作ることに成功したともいえる。本成果はACS Catalに掲載済みである。Editor's Choiceや雑誌のFront Coverにも選ばれ、Most Read Articleの一つとしても数ヶ月間その地位を保っている。また(PP)Ru錯体を用いる高活性水素化触媒を目指した研究も、二座リン配位子の二つのリン原子をつなぐ炭素鎖をC4(ブチル基)にし、リン上のAr基を3,5-ジメチルフェニル基にすることによって、過去最高のTON(~1500)を達成した。その成果も高く評価され、Bull. Chem. Soc. Jpn.のSelected PaperおよびInside Front Coverとしても採用された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(PNNP)Ir錯体とLewis酸を用いて、これまでその報告例が皆無に等しい天然由来の多価カルボン酸類の水素化に成功した。カルボン酸の水素化における大きな問題点の一つは、カルボン酸エステルの副生をどうしても避けられない点にある。今回、カルボン酸が存在しても水素化能が失活しない(PNNP)Ir錯体触媒を用いることが鍵であった。すなわち、触媒不活性種であるIr-carboxylate錯体が生じてもLewis酸であるZrCl4やAlCl3の作用によってcarboxylateがIr中心から外れやすくなり、Ir中心にH2が作用しやすくなったことがある。またLewis酸の主たる役割は、系中でカルボン酸をそのエステルへと変換することであり、今回アルコール溶媒を用いることで出来うる限り少量のカルボン酸濃度に抑えることができた点もある。本系は実質的にはカルボン酸から系中で生じたエステルの水素化であるが、このようなLewis酸の多機能性により、見かけ上、カルボン酸の水素化がエステルの副生を全く伴わない形で進行したと結論付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(PNNP)Ir(III)錯体はBPh4を対アニオンとしてもつカチオン性の錯体である。そのため、carboxylateアニオンが強くIr中心に結合することが、カルボン酸の水素化の反応速度を大きく下げていた原因の一つである。したがって今後はIr中心のLewis酸性を抑える目的で中性の錯体へと分子設計を移していく。すなわち、これまで配位結合を提供していたビピリジン部位の窒素原子(+0の形式電荷)を炭素原子(-1の形式電荷)に変えれば、水素(-1の形式電荷)とCl(-1の形式電荷)と合わせて計-3の形式電荷をもつ配位子になるためIr(+3)中心は中性となる。中性Ir(III)錯体である(PNCP)Ir(III)錯体を合成し、そのカルボン酸水素化能を調査する。現在多段階を経てPNCP四座配位子を合成し終わった段階にあり、Irとの錯形成もほぼ成功した段階にある。今後はこの(PNCP)Ir錯体の収量を向上させ、必要量を精製のうえ単離し、さまざまなカルボン酸の水素化へと応用していく。また九州大の著名な計算化学グループとの共同研究によって、(PNNP)Ir錯体と(PNCP)Ir錯体の様々な違いが何に起因するのかを調査を始めた段階であるので、触媒作用機構と触媒サイクルに関わる新知見を理論的にも得たい。
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Research Products
(7 results)