2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H02736
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
張 浩徹 中央大学, 理工学部, 教授 (60335198)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中田 明伸 中央大学, 理工学部, 助教 (20845531)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光ハイドライド / 水素 / 金属錯体 / プロトン共役電子移動 / 多座配位子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、申請者らが見出した非貴金属とH+及びe-を貯蔵できるπ系ジアミン配位子を含む錯体分子(Metal-binding π-diamine (MπA))を用いた光駆動型水素吸蔵・放出システムの学理を確立し、室温での光により 駆動する光駆動型錯体ハイドライドの精密設計を展開することを目的としている。 昨年度は、まず当グループにより見いだされたM(opda)3]2+系における配位子上での段階的なPCETプロセスの詳細について検討を進め配位子上で2電子/2プロトンの逐次的な移動が生じ、2種のプロトン共役型混合原子価配位子を含む錯体の合成とその分光化学的及び光化学的特性について成果を得た後論文を発表した。またこの過程に、光照射下においてはopda/bqdiが絡む副反応の存在が示唆され、完全な水素放出・吸蔵プロセスの確立には至っていない。そこで、二座、四座型テトラアミンを含むモノ型opda/bqdi錯体をモデルとして合成すべく、四座型テトラアミンである1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane (L)を含む[FeII2L2Cl2]Cl2, AgClO4およびopdaの反応により、[FeIIL(bqdi)](ClO4)2 (3)の生成を示唆する1H NMR, IR, ESI-MSスペクトル及び結晶構造を得た。このbqdi錯体はトリス型[Fe(bqdi)3]2+に比べてFeII中心の酸化電位およびbqdi配位子の第一還元電位がそれぞれ0.58 mV負側にシフトしたことから、補助配位子の設計によりopda上でのPCET反応を精密に制御しうる可能性が示唆された。以上の結果は、トリス型ハイドライドにおいて潜在する諸問題の解決と特性向上に向け、PCET活性配位子と補助配位子の設計と並びに金属の選定が重要であることを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光駆動型ハイドライドという既存のハイドライドには無い独創性と特徴を有するハイドライドを合理的かつ精密に開発するにあたり、基本骨格となる物質設計と合成に加え、これらの暗条件及び明条件における特性制御が必要となる。重要な核となるトリスopdaFe(II)錯体において偶数電子/プロトンにより相関づけられる4つのopda/bqdi錯体が系統的に得られ(Chem Eur Jに掲載決定)たことは、暗条件下における形成可能化学種としてopda/bqdiが可能であることを強力に支持する。一方、光による水素ラジカル発生後に形成する奇数系錯体群に対しては、少なくとも無置換型opdaにおいては極めて反応活性であり、我々の知見と予想では不均化により偶数系錯体群に変化する。これらを逆手にとれば、1光子による2電子/2プロトン移動プロセスが可能となり、光ハイドライドの実現に向け大きな飛躍となりうる。このプロセスの合理的制御に加え、本来潜在した不安定性を劇的に向上させるべく、Fe(II)等に対し、2,4,6座型配位子を利用することによる系統的研究を開始できたことが重要と考える。特に極めて強い電子供与性を持つテトラアミン型4座配位子を含む場合においては、強い補助配位子からFe(II)への電子供与により酸化型配位子であるbqdiへのFe(II)からの逆電子供与が強まる事も明らかとなった。本光ハイドライドの設計にはopda及びbqdi、そしてラジカル型s-bqdi型配位子の安定性制御が鍵を握ることからも昨年度は重要な知見が得られたと考える。また、このようなレドックス活性配位子を用いた既存ハイドライドの活性化においても2016年に我々が発表したアミノフェノラートFe(II)錯体に対し、金属及び軸配位子を最適化することで5倍近いMeOHからの光脱水素化触媒活性能の向上が実現されたことも重要な進歩である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、MπA及びその類似体を新規ECとして活用すべく、以下の研究を展開する。 課題1)効果的光水素発生には、溶媒分子や芳香環水素との 反応を抑え、発生した水素ラジカル間結合または水素ラジカルによるNH2基からの水素ラジカル引き抜きを選択的に引き起こす必要がある。そのために、溶媒の最適化による副反応の抑制や、C-H結合からC-F結合への変調による副反応抑制を進めつつ、水素ラジカル発生効率の向上に向けた励起状態の失活パスの抑制因子の解明及び、可視光域のCT吸収を利用した水素ラジカル発生設計を進める。 課題2)6OのCVには多段階の不可逆的還元プロセスが観測される事からも、不安定なラジカル配位子を含む5Rや3R, 1Rが暗条件にて不均化し4R, 2R, 6Oを生成している事が示唆される。以上の可能性を実験により証明すべく、光反応の濃度依存性や二量体モデルによる検証、及び6Oの定電位電解による4R, 2R , 6Oの選択的生成確認と化学因子の最適化による不均化プロセスの制御を進め、1光子吸収により生成した5Rから3R, 1Rが各々50%の確率で不均化(暗反応)を経て逐次的に4R, 2R, 6Oへと変換される新しいハイドライド;駆動系を構築する。 上記の二課題を遂行するにあたり、これまで用いてきたトリスopda錯体に加え、2座及び4座型アミン系補助配位子を用いたモノ及びビスopda /bqdi錯体の系統的合成及び速度論的な安定性の向上が期待される縮合型トリスopda錯体群を創成その評価を進め合目的に研究を展開する。
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Research Products
(7 results)