2019 Fiscal Year Annual Research Report
スピン依存の光励起ダイナミクスを利用した開殻分子エレクトロニクス
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19H02788
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松田 建児 京都大学, 工学研究科, 教授 (80262145)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子エレクトロニクス / 開殻分子 / 励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ジアリールエテン縮環体の両端にイミノニトロキシドを配置した化合物を合成し、縮環体を介したラジカルスピン間の交換相互作用をESRの線形より見積もり、縮環体が閉環体と同様に優れた電子トンネリング特性を持っていることを明らかにした。縮環体を通した交換相互作用は、メタ‐メタ体とパラ‐パラ体の双方において、開環体より非常に大きい値となり、閉環体の約半分の値であった。計算による最適化構造で、中央の骨格とベンゼン環の間の2面角が縮環体では閉環体より大きいことが示唆されたので、同じ2面角に値を補正すると、交換相互作用はほぼ同じ値になった。このことから、縮環体と閉環体の電子トンネリング特性は非常に似ていると考えられる。 また、申請者は、これまでに、異なるドメインを形成するテンプレートにそれぞれ異なる分子を配位させて、測定対象の二種類の分子の固液界面に形成される二次元配列を二次元相分離し、ドメイン間での定電流モードでのSTMの測定高さを比較することで、分子のコンダクタンスに関する情報を得ることに成功している。今年度は、高さの異なるビフェニル誘導体とビチオフェン誘導体について、コンフォメーションの熱力学的分布を考慮して高さ情報を取り扱い、コンダクタンスに関する情報を得る実験を行った。その結果、ビチオフェン誘導体は、ビフェニル誘導体の1.1倍コンダクタンスが大きいという結果が得られた。この値はメカニカルブレークジャンクション法によって報告されている値と一致することから、本研究により、この手法の一般性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ラジカル間の交換相互作用の測定により、縮環体が閉環体と同様に優れた電子トンネリング特性を持っていることを明らかにすることができた。また、二次元相分離したドメイン間でのSTMの測定高さを比較することで、分子のコンダクタンスに関する情報を得る手法では、高さの異なる分子について、コンダクタンスに関する情報を得ることができた。おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、有機ラジカルを含む分子ワイヤについてこの手法を用いて分子コンダクタンスの測定を検討する。テンプレートにはアルキルの鎖長を変えたRhポルフィリンを用い、開殻性の異なる2種類の分子を用いる。ドメイン構造が確認できたら、STMの観測高さから分子電導の減衰定数βについて検討する。開殻系ならではの分子軌道と分子コンダクタンスの関係について調べる。
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Research Products
(4 results)