2021 Fiscal Year Annual Research Report
光活性中心が高濃度凝集した高効率発光性シリカガラスの開発
Project/Area Number |
19H02802
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
梶原 浩一 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (90293927)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シリカガラス / 光活性中心凝集体 / 希土類イオン / エネルギー移動 / ナノ結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、濃度消光のない光活性中心の高濃度ナノ凝集体を含む透明発光性シリカガラスの開発と物性評価、および発光材料への応用である。凝集体として、主に希土類(RE)イオンを高濃度(1.3-1.6×10^22 cm-3)に含むためそれらの間隔が小さく(~0.4 nm)、エネルギー移動が起こりやすい希土類リン酸塩(REPO4)を用いている。今年度は主に、昨年度見出した無濃度消光緑色発光を示すシリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラスと(Tb,Ce)-Al共ドープシリカガラスの発光特性の比較、および母体であるシリカガラスの合成法の改善を行った。 PとAlは、シリカガラスへのREイオンの溶解を促す代表的な共添加元素である。PはREPO4ナノ結晶を析出させるが、AlはREイオンを比較的均一に分散させる。この違いが光活性イオン間のエネルギー移動と発光に及ぼす影響は定量的に調べられていない。シリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラスは、昨年度見出したとおり、Ce3+イオンからTb3+イオンへの励起移動を介して内部量子効率(IQE)~1の無濃度消光発光を示したが、消光中心であるNd3+イオンを少量(全RE量の1at%)加えるとIQEは~0.02まで激減し、(Tb,Ce)PO4粒子内での高速なエネルギー移動が確認された。他方、(Tb,Ce)-Al共ドープシリカガラスでは、IQEは~0.5と低いものの、Nd3+イオン添加後のIQEは~0.4と消光は顕著ではなく、RE均一分散系でのエネルギー移動の遅さ、およびその帰結としての消光中心添加に対する不感性が示された。 本研究で用いている、無共溶媒ゾル-ゲル法によるシリカガラスの収率が99%を超えることを見出した。他方、ケイ素源としてテトラメトキシシランを用いた合成は、その高い反応性のため、室温では困難であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、濃度消光が抑制できることが報告されているRE濃度は10^21 cm-3オーダーであった。本研究で用いたREPO4は、これらの~2倍以上の1.3-1.6×10^22 cm-3のREイオンを含むため、全REイオンが臨界エネルギー移動距離(~0.5-0.6 nm)以内の~0.4 nmで近接している。今年度、内部量子効率(IQE)~1の無濃度消光発光を昨年度実現したシリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラス緑色蛍光ガラスで消光中心(Nd3+)の微量(1 at%)添加でIQEが~0.02まで激減すること、このような現象はREイオンが比較的均一分散した(Tb,Ce)-Al共ドープシリカガラスでは起こらないことが確認された。この結果は、RE濃度が10^22cm-3でエネルギー移動が高速であっても無濃度消光発光が可能なことを明快に実証しており、REを発光中心とする発光材料の開発にあたり有益な指針となると期待されるとともに、シリカ-REPO4透明結晶化ガラスの発光材料としての有用性を示すものであると考えている。 加えて、本研究で用いているテトラエトキシシランをケイ素源とした無共溶媒ゾル-ゲル法によるシリカガラスの収率が99%以上と極めて高いことが確認されたことは、ゾル-ゲル科学における基礎的知見として有意義である。 他方、赤外発光材料として有望なシリカ-YbPO4透明結晶化ガラスの合成は遅れ気味であったが、再現性向上の糸口を見出しつつあるため、最終年度に向けて引き続き合成法の改良に取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であり、総括に向け以下の課題を実施する。 (a)赤外発光性シリカ-YbPO4透明結晶化ガラスの合成と評価:シリカ-YbPO4透明結晶化ガラスの波長1μmの発光の効率はSiOH基の除去によって向上するが、透明性の良い試料の作製は再現性が悪く難しかった。本年度の研究で、SiOH基の除去に有効な新フッ素源を見出し、透明化などに課題は残るものの、再現性が改善された。次年度はこの手法を進展させ、YbPO4ナノ結晶という発光中心が高濃度凝集した系での無濃度消光赤外発光の実現を目指す。 (b)シリカ-(Yb,Er)PO4透明結晶化ガラスによる1.5μm帯の高効率励起と広帯域化:エネルギー移動を利用した赤外発光材料の実証例として、シリカ-(Yb,Er)PO4透明結晶化ガラスによる1.5μm帯発光材料の開発を引き続き行う。これまではシリカ-YbPO4透明結晶化ガラスの合成に注力したため、本課題は進捗が芳しくなかった。Er3+イオン単独ドープで発光強度を強めるには高濃度化するほかなく、Er3+イオンによる発光の再吸収が避けられなかった。Yb3+イオンを光増感剤として用いることでEr3+イオン濃度を下げて再吸収を抑制し、短波長側への発光広帯域化を図る。 (c)シリカ-EuPO4透明結晶化ガラスの発光効率向上:これまでの研究で、シリカ-(Tb,Ce)PO4およびシリカ-(Gd,Pr)PO4透明結晶化ガラスで、それぞれ内部量子効率が~1の無濃度消光緑色および紫外発光を実現した。他方、シリカ-EuPO4透明結晶化ガラスではEu3+イオンの赤色発光の内部量子効率は~0.1に留まった。消光原因と予想される因子を除くことで発光効率向上を目指す。また、その結果から、本課題の主題である、光活性中心凝集体がナノサイズであれば無濃度消光発光が実現できるという仮説が成立する条件について検証を進める。
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