2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Stimulated Raman Stark Spectroscopy toward Space- and Time-Resolved Operando Analysis of Batteries
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19H02821
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
重藤 真介 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (10756696)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非線形ラマン分光 / イオン液体 / ポッケルス効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、電池の時空間分解オペランド計測に応用可能な、非線形ラマン散乱を用いた新規シュタルク分光法の開発を目的としている。昨年度は、1064 nmの狭帯域光および600~1800 nmの超広帯域光を出力するナノ秒パルスレーザー光源と特注の正倒立顕微鏡をもとに非線形ラマン分光顕微鏡の製作に取り組んだ。3次非線形光学過程の一種である誘導ラマン散乱の信号をInGaAsアレイ検出器を用いて検出することを試みたが、高いノイズレベルのためスペクトル測定が困難であることがわかった。そこで、もう一つの3次非線形光学過程であるコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)を利用した非線形ラマン分光顕微鏡を構築し、上記の技術的問題点の回避を図った。 今年度は、開発した顕微分光装置をファンクションジェネレーターと組み合わせることにより、CARSスペクトルの外部電場応答を測定した。液体n-ヘキサデカンのC-H伸縮振動領域のCARSスペクトルを、10~30 kV/cmの直流電場を100 msでスイッチングさせながら測定したところ、電場印加による最大3%程度のCARS信号強度の変化を捉えることに成功した。さらに、この実験とは独立に、自発ラマン顕微鏡を用いて、電池の電解液としての応用が期待されているイオン液体の外部電場応答の測定も行った。アルキルイミダゾリウムをカチオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをアニオンとするイオン液体3種のラマンスペクトルを電場印加時と非印加時で交互に測定し、それらの差スペクトルを求めた。得られた差スペクトルは、振動モードによらず電場印加により一様にラマン散乱強度が増加あるいは減少するというまったく予想外の結果を示した。この結果は、電場印加により電極付近のイオン液体に何らかの秩序構造が形成され、その屈折率が変化すること(ポッケルス効果)を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の初頭には、新型コロナウイルス感染症の影響により研究室での実験の停止を余儀なくされる事態が出来した。その後、研究活動の再開が許可されたものの、年度を通じて実験室に滞在できる人数が従来の7割程度に制限された。また、検出器など欧米から輸入される備品の納品に通常より長い期間を要した。計画当初は予測不可能であったこのような事態により研究の遂行に少なからぬ遅れが生じたことは確かであり、その点で進捗状況は「やや遅れている」と判断するのが妥当であろう。しかしその一方で、CARS分光顕微鏡を用いた電場応答の観測に初めて成功した点は今年度の非常に大きな成果である。得られた結果は、懸念事項であったCARSの非共鳴バックグラウンドがほとんど影響を及ぼさない可能性を示唆しており、最終年度での応用展開にとって大きな福音と言えよう。それに加えて、イオン液体のポッケルス効果という、研究開始時には予期していなかった新たな現象を見出すこともできた(国際学術誌Langmuirにて掲載決定済み)。これらの点は「当初の計画以上に進展している」と評価することができる。以上を総合的に勘案して、現在までの研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者らは今年度までに、非線形ラマンシュタルク分光顕微鏡を開発し、テスト試料で予備的な結果を得ることに成功した。今後は、開発した装置を当初予定していた電池のモデル系に適用する。自発ラマン散乱を用いた測定にすでに成功しているイオン液体の電場応答をCARSシュタルク分光顕微鏡で測定する予定である。これまで電場印加に用いていた試料セルは、励起光・ラマン散乱光の両方が透明電極を通過する配置をとっていた。この配置ではポッケルス効果による信号強度の一様な増加あるいは減少という興味深い現象を見出すことができたが、電場印加による分子配向、電子分布、平衡などの微小な変化がその信号に埋没してしまう可能性も明らかとなった。そこで、セルを90度回転させてポッケルス効果が顕著に干渉しない配置に改良し、イオン液体のシュタルク効果の観測に取り組む予定である。オペランド解析への応用に向けて、装置の改良による時間分解能の向上にも取り組む。また、CARSの励起光を照射すると容易にペロブスカイト薄膜が損傷される問題点が明らかとなっているが、レーザーパワーや露光時間の最適化や薄膜試料の保護などを行うことで解決を目指す。
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