2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of Molecular Mechanism for Activation of High-Valent Metal-Oxo species through their interaction with G-Quadruplexes and Creation of Novel DNAzymes
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19H02824
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山本 泰彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00191453)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 秋弘 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (60179190)
百武 篤也 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70375369)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 四重鎖DNA / ヘム / G-カルテット / 酸化触媒作用 / 機能性核酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
チミン(T)、アデニン(A)とグアニン(G)からなるDNA塩基配列d(TTAGGGA)が4分子集まって形成する平行型四重鎖DNAのG-カルテットにヘムは特異的に結合し、酸化触媒活性をもつ複合体を形成する。G-カルテットは、DNAとRNAの四重鎖に存在する特徴的な構造であり、グアニン塩基4つが水素結合により環状に連結して生じる。G-カルテットの平面性と大きさは、生物界に遍在するヘムのポルフィリン環等の環状テトラピロール類とのπ-πスタッキングに適している。 今年度の研究で、ヘムは四重鎖RNAにも特異的に結合して複合体を形成することを明らかにした。さらに、四重鎖DNAでは、ヘムは3’末端G-カルテットに結合するのに対し、四重鎖RNAでヘムは5’末端G-カルテットに結合することを明らかにした。ただし、ヘムの結合部位は異なるにもかかわらず、ヘムと四重鎖RNAの複合体は、ヘムと四重鎖DNAの複合体と同様の酸化触媒活性を示すことを明らかにした。このように、私共は、ヘムが核酸の補欠分子族として機能することを実証することに成功した。また、私共は、四重鎖DNAと四重鎖RNAのG-カルテットは、環状テトラピロール類への金属イオンの挿入反応を促進するキラターゼ活性をもつことも明らかにした。 生命誕生以前の原始地球上でRNAを中心とする自己複製系が存在していたとする“RNAワールド”仮説が正しとすると、ヘムが組込まれることによってRNAの機能が拡張することを実証した本研究の成果から、ヘムの先祖と言える金属錯体がRNAワールドの出現に一翼を担っていた可能性が示された。さらに、G-カルテットがキラターゼ活性を示すことから、原始地球上におけるヘムの先祖等の環状テトラピロール類の金属錯体の合成で、G-カルテットが触媒として役立っていた可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究により、ヘムはRNAに特異的に結合してRNAの機能を拡張すること、四重鎖RNAのG-カルテットはポルフィリン環への金属イオンの挿入反応を促進するキラターゼ活性を示すこと、を明らかにした。これらの結果から、“RNAワールド”仮説が正しいとすると、ヘムの先祖と言える金属錯体の合成に必要なポルフィリン環への金属イオン挿入反応をG-カルテットが促進していた可能性、そして、金属錯体が組込まれたRNAがRNAワールドを支える重要な触媒として作用していた可能性が示された。 ヘムは、RNA塩基配列r(UUAGGGA)が4分子で形成する四重鎖RNA([r(UUAGGGA)]4)のG4 G-カルテットの5’末端に特異的に結合し、酸化触媒作用を示す複合体を形成することを明らかにした。[r(UUAGGGA)]4におけるヘムの結合部位は、カウンターパートの四重鎖DNA [d(TTTAGGGA)]4での結合部位とは異なっていた。RNAのリボース環の2’位炭素原子の水酸基(2’-OH)はG-カルテットの3’末端側に存在するので、ヘムのポルフィリン環のπ電子が2’-OHの酸素原子の静電ポテンシャルと反発するため、結果的に5’末端側に結合すると考えることができる。一方、2’-OHがないDNAでは、ヘムは[d(TTTAGGGA)]4のG6 G-カルテットの5’末端側に結合する。2’-OHは分子内または分子間での水素結合形成に関与できるため、[r(UUAGGGA)]4の変性温度は約90 ℃、[d(TTTAGGGA)]4は約65 ℃であった。また、G-カルテットの重心近傍は電子が豊富であるので、G-カルテットに結合したポルフィリン環の中央への金属イオンの接近に都合が良いと共に、G-カルテットとポルフィリン環の接触界面の疎水性空間はキラターゼ活性に必要な一連の反応に適していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に当たる2021年度は、グアニン四重鎖のG-カルテットに結合した酸化型ヘム(Fe3+)のオキソ鉄4価ポルフィリンπカチオンラジカル錯体(Compound I)への変換に重要な役割を担っていると考えられる水分子(axH2O)の物理化学的性質を解析し、Compound I生成機構の解明に有用な知見を得る。axH2Oは、G-カルテットとヘム(Fe3+)の接触界面に存在し、軸配位子としてヘム鉄に結合している。また、axH2Oは、G-カルテットのグアニン塩基のカルボニル酸素原子と水素結合を形成していると考えられる。そこで、axH2Oのプロトンに由来するNMRシグナルの検出を試みる。axH2Oはヘム鉄との配位結合とG-カルテットとの水素結合を通して疎水性空間に孤立していることから、溶媒の水分子との交換は遅いと予想されるため、NMRシグナルの観測に好都合である。ただし、酸化触媒作用を示すヘム(Fe3+)では、ヘム鉄は不対電子が5つ存在するFe3+高スピン状態なので、外部配位子を添加して不対電子を1つもつFe3+低スピン状態に変換してから解析を行う予定である。また、Fe3+低スピン状態のヘムの側鎖プロトンに由来するNMRシグナルで観測される常磁性シフトは、ヘムのポルフィリン環の電子構造を鋭敏に反映することを利用して、axH2O、ヘム鉄およびポルフィリン環のπ電子系相互の電子的相互作用、axH2Oの電子的性質がヘム鉄を通してポルフィリン環の電子構造に与える影響を解析する。そして、axH2Oの電子的性質が、ヘムの電子構造、ヘム鉄の電子密度、四重鎖DNAの立体構造の変化によりどのような影響を受けるのかを明らかにする研究を通して、Compound I生成機構の解明に寄与する研究成果を得ると共に、H2Oの新しい機能およびH2Oを利用する新規反応の発見につながる知見を得ることを目指す。
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Research Products
(7 results)