2020 Fiscal Year Annual Research Report
第三世界におけるバイオ製剤の常温輸送・保存を志向したタンパク質三次元修飾法の開発
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19H02833
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 大士 京都大学, 高等研究院, 准教授 (20713564)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自己集合分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題においては、タンパク質の近傍空間を化学構造体により取り囲む、すなわち空間的な修飾を施すアプローチにより、内部に包接した生体分子の著しい安定化をはかることを目指す。人工ケージ内に空間的に拘束されたタンパク質は、分子本体は天然状態とまったく同一でありながら、トポロジカルあるいはメカニカルな束縛 を受け、自身は大きな分子構造変化、および他のタンパク質分子との相互作用が制限を受ける。結果、構造変性や凝集現象、加えてプロテアーゼによる分解を受けず、「失活しない酵素」と成り得るというのが作業仮説であった。 2019年度は、現状保有するパラジウム錯体ケージ系を用いた系にて基礎的な知見を収集した。その結果、空間拘束された酵素は、「nativeの状態と同様に振る舞い同等の酵素活性を保持している」「native酵素が凝集沈殿する条件でも凝集沈殿を起こさない」「室温で長期安定保存可能」「拘束空間中にて部分的変性を起こした場合でも、リフォールディング挙動が観測される」といった期待通りの特性を有していることが明らかなった。 2020年度は、初年度に行った各種試験の結果に基づき、より生体分子親和性の高いケージ分子の新規設計を行った(研究計画調書に記載の通りの計画)。その結果、狙い通りの特性(水溶性、水中における安定性、その他生体 分子親和性)を有する共有結合に基づくケージ分子の合成に成功した(質量分析法にて分子の生成を確認)。 2021年度は、この新しく合成したケージを用いて、実際のバイオ医薬品分子を包接し、その分子特性を評価する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書に記載した2020年度の研究計画は、「パラジウム錯体ケージを脱し、より生体適合性の高い構造へと改良する。」であった。2020年度は実際、① 安定性が高くタンパク質機能 との干渉しにくい金属イオン種を用いる。② 金属イオンを用いたケージの自己集合の後に、共有結合を用いたクリッピングを行う。③ 共有結合を用いた自己集 合制御により共有結合を形成する。の3点のアプローチにより新ケージの合成を目指した。結果、③に挙げた、共有結合によるアプローチでの新ケージ合成に成功するなど、最も望ましい形で中期目標を達成することができた。今後も引き続き、研究計画調書に記載の計画に従って、2021年度目標である「実際の応用を見据えた対象タンパク質を用いin vitro環境にて実証実験を行う」に取り組みたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
21年度は合成した共有結合ケージ内部に、生体分子を包接し、その安定性の確認を行う。一例に縛られるものではないが、既にバイオ医薬品と して上市されており、かつ重要なものをデモンストレーションに用いる計画である。タンパク質としてエリスロポエチンやインターロイキン類 などが候補にあがる。これらはいずれも分子量が数十kDa以下と、既存のケージサイズで十分に対応できる分子サイズであるため、実験モデル として相応しい。またこれらタンパク質は、試薬としての入手性が高く、各種アッセイキットも市販されていることから、実験系の構築も比較 的容易である。なおデモンストレーションとしてはタンパク質に限定される必要はなく、例えばコロナウイルスワクチンとしても脚光を浴びた mRNAワクチン等も、時節柄有用なデモンストレーションになると思われる(特に-80°Cの超低温保管条件が必要なものは、先進国でもそのコー ルドチェーンに難を抱えているため)。当初計画ではタンパク質医薬品に限定していたが、上述の世界情勢の変化から、可能であれば、RNAの 包接・安定化も視野に研究を展開する計画である。
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