2019 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子重複をキーワードとした天然物構造多様性獲得機構の解明
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19H02835
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
南 篤志 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40507191)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺伝子重複 / 天然物 / 構造多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
糸状菌Talaromyces islandicus の染色体上に40%以上の同一性(identity)を示すポリケタイド合成酵素遺伝子が3種類存在していることに気づいた(TiPKS1-3)。周辺に位置する遺伝子を比較したところ(図1右)、①全てのクラスターに必ず存在する遺伝子(A群)、②複数のクラスターに存在する遺伝子(B群)、③特定のクラスターにしか存在しない遺伝子(C群)がみつかったことから、これらの遺伝子群は構造類縁化合物の生合成に関与することが示唆された (図1) 。このように、一つの菌株が相同性の高い遺伝子のセットを3種類ももっている例は珍しく、天然物が構造多様性を獲得する上で重要とされている“遺伝子重複”の影響を検証する格好の研究対象と考えられた。そこで本研究課題では、①T. islandicus の染色体上に重複して存在する天然物生合成酵素遺伝子(A/B群)の網羅的解析、②特定のクラスターに存在する修飾酵素遺伝子(C群)の機能解析、③人為的な遺伝子重複による構造多様性の創出、④分子系統解析を通して、天然物が構造多様性を獲得する際の遺伝子重複の重要性やその起源を明らかにする。初年度は、主に、①と②について検討した。 まず、A群に分類される骨格構築酵素遺伝子のクローニング・異種発現を行い、同一化合物αを与える2種の骨格構築酵素を特定した。この結果から、これらの骨格構築酵素遺伝子を含む2種の遺伝子クラスターが構造類似天然物の生合成に関与することが強く示唆された。また、解析に成功した一方のクラスターにのみ存在する修飾酵素遺伝子の解析を行うことで、特徴的な機能をもつ修飾酵素βの同定にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最初の課題は、遺伝子重複の重要性を考える上で適切な研究対象の選択にあった。この課題を解決するため、骨格構築酵素の機能解析を優先的に進め、2種の骨格構築酵素(A群)が同一の化合物αを生成物として与えることを明らかにした。以上の実験結果から、注目したクラスターが「天然物の多様性創出における遺伝子重複の影響」を検証するための格好の研究対象であることが強く示唆された。加えて、クラスターに存在する修飾酵素遺伝子の解析の過程で、C群に分類される修飾酵素βの同定にも成功した。本酵素は、B群の酵素により生成すると予想される複数の類縁体(α1、α2、α3など)を基質として受容して多様な生成物を与えることがわかった。本酵素の発見により、“遺伝子重複”に加えて“基質特異性の寛容な酵素の存在”が天然物の多様性創出を考える重要なファクターであることも示唆された。以上、初年度は「研究対象の妥当性の検証」だけでなく「多様性創出における鍵酵素の同定」に成功したことから、本研究は順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、上述した2種類のクラスターに着目して、B群及びC群に属する修飾酵素の機能解析に注力する。具体的には、B群に属する修飾酵素遺伝子導入株を作成し、共通中間体αを用いた微生物変換を行う。新規化合物の生産を確認した場合、生成物の単離・構造決定に加え、各修飾酵素のin vitro解析を行う。また、初年度に機能同定した修飾酵素βの精密機能解析も行う。さらに、項目③の予備検討として、類縁化合物を生産することが知られている他菌株のもつ生合成遺伝子の解析にも着手し、共通中間体αの修飾反応を担う酵素を特定する。
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