2019 Fiscal Year Annual Research Report
生合成拡張型骨格多様化合成によるマクロ環状分子群創製と機能創出
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19H02847
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
大栗 博毅 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80311546)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生合成摸倣合成 / 骨格多様化 / アルカロイド / 多能性中間体 / ジヒドロピリジン / アセチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
天然物の優れた生体制御機能を合成化学的に拡張するアプローチとして,申請者らが提起してきた“骨格多様化合成”の新しい可能性を追求する。生合成を摸倣しつつ,合成化学的な展開を見据えて適切な官能基を導入した多能性中間体を設計・合成する。多能性中間体と平衡にある複数の縮環骨格を作り分け,骨格形成反応の位置・立体・エナンチオ選択性を制御するための合成論理や戦略の提案と体系化を進める。ジヒドロピリジン/ビスピロリジノインドリン等に潜在する多彩な反応性を協同的に引き出し,一連のアルカロイド群や合成アナログ群を系統的に骨格多様化合成する。骨格や立体化学を指標として構造と機能の相関を評価する。三次元構造の多様性に富んだ多官能性骨格群を系統的に合成し,既存の化合物ライブラリーとは一線を画した高次構造スキャフォールド群を現実的なコストで創製する。 本年度は、gem-ジメチル型ジヒドロピリジン(DHP)の6位を第四級炭素とした基質群を設計・合成して、生合成類似の二量化反応を系統的に検討した。第四級炭素導入により立体障害が増大した基質群においても、DHPに潜在する多彩な化学反応性を活用できることを実証した。これらの試行錯誤を踏まえて、生合成類似の位置選択的な二量化反応を実現した。分子環Mannich型反応によりハリシクラミン型骨格を一挙に構築するアプローチの実効性を示すとともに基質適用範囲を拡大した。また、Diels-Alder型反応により、ケラマフィジン型骨格を構築できる可能性を実験的に示すことができた。 上記の研究で関与が示唆されたRetro-Mannich型反応に着目して、多環性アルカロイドアナログ群の骨格多様化合成に成功した(Chem. Sci. 2019)。共通の多能性中間体に対して,アルキン部位を亜鉛試剤で活性化するアプローチで,天然物類似骨格群を短工程でつくり分ける合成プロセスを開発できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高次構造を有する低・中分子群の系統的合成と機能創出を革新する基盤研究を展開している。 ジヒロドピリジン(DHP)については、四級炭素を導入した系で意外な環化反応を見出し、反応機構解明への手掛かりを得た。また、上記のように6位を四級炭素とした系でDHPの位置選択的な二量化を高い収率で実現することができた。 インドールとアルキンを併せ持つ共通の中間体を設計した。Zn(OTf)2 でアルキンを活性化し、鍵中間体を経由する様々な分子内環化反応を検討した。鍵中間体の置換基 (R1ーR3) の改変や反応条件(溶媒・温度)の最適化によって環化様式を制御し、四系統のアルカロイド骨格群を作り分けに成功した。北海道大学の前田らと共同で人工力誘起反応法により反応経路を探索し、溶媒のアルコールがプロト脱亜鉛化の過程に関与する意外な遷移状態を提案した。実際に本反応は酸の添加が不要であり、ほぼ中性条件で環化が進行する実験事実と合致した(Chem. Sci. 2019)。また、スピロ型環化体にZn(OTf)2を2-BuOH中 100 °C で作用させると、7員環への環拡大反応が進行することを見出した。 二量体型アルカロイド群(ビスピロリジノインドリン)では、立体化学の異なるジアステレオマー群やアミノ酸ユニットの鏡像体が生合成される。この例外的な生合成の知見を踏まえ本研究では、三箇所の立体化学を系統的に改変した中分子アナログ群を合成した.合成した8種類の異性体の一種のみが、ヒト結腸癌細胞HCT116に対して立体化学特異的な増殖阻害活性を発現した。この活性分子の投与により乳酸が蓄積し、各種実験からミトコンドリアを標的する可能性が強く示唆された(ChemBioChem2019, VIP paper選出、back cover掲載)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ジヒロドピリジン(DHP)の6位へgem-ジエステル基などを導入した基質群を設計・合成する。これにより、様々な骨格を形成した後に6位置換基を除去したり、化学変換に活用できる置換基として活用する。これにより、今回開発した分岐型骨格多様化合成プロセス大幅に拡張する。位置・立体・エナンチオ選択性を制御し、関連するアルカロイド骨格を自在に構築する基盤技術を開発する。 インドール環を有する単量体型基質で蓄積した独自の新知見に立脚し,共有結合性官能基を組み込んだ二量体型中分子群を創製する。縮環骨格や共有結合性官能基を主な指標として構造と機能の相関を評価する。三次元構造の多様性に富んだ多官能性骨格群を系統的に迅速合成し,既存の化合物ライブラリーとは一線を画した高次構造中分子群を現実的なコストで創製する。中分子アルカロイド群のモジューラ式骨格多様化合成,活性評価,作用標的同定をシームレスに実施できる医薬品リード創出システムを実現していく。 二量体型アルカロイド群(ビスピロリジノインドリン)に関して申請者らは、二量体型アルカロイド骨格に金属配位部位を連結したジアステレオマーを設計・合成し、立体化学に依存した発光性ランタノイド錯体のキロプティカル特性のスイッチング(J. Org. Chem. 2018) を実現した。更に、直径 800 nm 程度のサブマイクロメートル球状粒子の創製にも成功した (Org. Biomol. Chem. 2018)。これらの知見を踏まえ、両親媒性リン脂質よりも格段に優れた分子認識能力や機能拡張性を有するキラル二量体型中分子脂質群を創製する。天然物の骨格多様化合成を基盤として合成化学と超分子化学が融合したアプローチを追求し、脂質や細胞膜のケミカルバイオロジー研究の進展に貢献する。
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Research Products
(13 results)