2020 Fiscal Year Annual Research Report
次世代のコバレントドラッグ創薬を志向した反応基の開発とプロテオミクス研究
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19H02854
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
進藤 直哉 九州大学, 薬学研究院, 助教 (20722490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コバレントドラッグ / ビシクロブタン / 分子ひずみ / チロシンキナーゼ / BTK / システイン / ABPP |
Outline of Annual Research Achievements |
コバレント阻害剤は求電子的な反応基を持ち、標的タンパク質の求核的アミノ酸残基と化学反応することで共有結合を形成し、不可逆的に機能を阻害する。毒性の懸念から従来の創薬研究では避けられる傾向にあったが、近年では標的タンパク質と選択的に反応するよう論理的に設計されたコバレント阻害剤 (targeted covalent inhibitors) が盛んに開発されている。しかし、システイン指向型反応基として従来広く用いられるアクリルアミドは、分子構造によっては時間・濃度依存的な非特異反応を起こすことから、申請者はより高度な標的選択性を実現する新たな反応基の探索を行った。その結果、アクリルアミドより穏やかにシステインと反応するクロロフルオロアセタミド (CFA) 基を見出し、チロシンキナーゼを標的とした不可逆阻害剤への応用に成功した。 本研究では、システイン残基を標的とした新たな反応基として、特異な立体構造と大きなひずみエネルギーを有するビシクロブタン環に着目した。前年度までの検討により、ビシクロブタンカルボン酸アミド (BCBアミド) の効率的合成法を確立した。また、BCBアミドがグルタチオンや生細胞プロテオームに対して、CFAと同等の穏やかな反応性を示すことを明らかにした。そこで当該年度は、チロシンキナーゼであるBTKを標的に、BCBアミドを反応基とする新規コバレントプローブの開発を検討した。アクリルアミド型の既承認薬であるイブルチニブの骨格に、アルキン部位とBCBアミドを導入したプローブを合成し、Ramos細胞中のBTKの蛍光ラベル化により、BTKと高効率・高選択的に反応するBCBアミド型プローブを探索した。骨格とBCBアミドを結ぶリンカー構造を種々検討した結果、アクリルアミド型プローブと同等のBTK反応効率と、高濃度でも高い選択性を示す化合物の創出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度はBCBアミドの有用性を明らかにするため、BCBアミドを反応基とする新規不可逆的BTK阻害剤の開発を検討した。はじめに、Activity-based protein profiling (ABPP) によるRamos細胞中のBTKの蛍光ラベル化を用いて、既承認薬の骨格にアルキンタグとBCBアミドを導入したプローブのBTK反応性・選択性を評価した。骨格とBCBアミドを結ぶリンカー構造を種々検討したところ、脂肪族アミンをリンカーとするプローブでは反応性が低く、十分なBTKラベル化効率が得られなかった。そこで、芳香族アミンをリンカーとするプローブを合成・評価した結果、チオールに対する反応性が向上し、低濃度でもアクリルアミド型プローブと遜色ないBTKラベル化効率を示す化合物を得ることに成功した。得られたBCBアミド型BTKプローブは、高濃度・長時間Ramos細胞を処理した条件においても、アクリルアミド型プローブと比較して高いBTK選択性を示した。また、アルキンタグを除いたBCBアミド型コバレント阻害剤を合成し、BTK阻害活性を検討した。その結果、アクリルアミド型の既承認薬・イブルチニブには及ばないものの、BCBアミド型コバレント阻害剤もBTKのチロシンキナーゼ活性を強く阻害した。BCBアミドを非反応性のtert-ブチルアミドで置換した化合物は活性を示さず、BCBアミド型阻害剤でもBTK-C481S変異体では阻害活性が低下したことから、BCBアミド型阻害剤がイブルチニブと同様、BTKのCys481と共有結合することで不可逆的にチロシンキナーゼ活性を阻害したことが強く示唆された。このように、当該年度の検討により、BCBアミドがコバレント阻害剤開発に有用なシステイン反応性求電子基であることを明らかにした。以上から、本研究はおおむね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の検討により、BCBアミドがシステイン指向型求電子基として、コバレント阻害剤開発に有用であることが明らかとなった。今後は、従来から用いられるアクリルアミド、および申請者が見出したCFAとBCBアミドの3つのシステイン反応性求電子基について、ケミカルプロテオミクス研究により反応基がコバレント阻害剤分子のプロテオーム選択性に及ぼす影響について検討を行う。手法としては、ABPPと定量性に優れたStable isotope labeling by amino acids in cell culture (SILAC) 法を組み合わせた実験を行う。すなわち、BTKを発現するRamos細胞を12Cおよび14Nで構成されたリジン・アルギニン、または13Cおよび15Nで構成されたリジン・アルギニン存在化で培養し、「Light」および「Heavy」アミノ酸標識細胞を調製する。これらの細胞を、アルキンタグを有するコバレントプローブ、またはDMSOで処理したのち、調製したライセートサンプルを混合し、アジド-アルキン環化付加反応によってアルキンタグにビオチンを導入する。ストレプトアビジンビーズによる濃縮、ゲル電気泳動、ゲル内トリプシン消化を経てLC-MS/MS解析を行い、各細胞サンプル中から濃縮されたタンパク質量をMSの強度比から比較定量する。同一のBTK指向リガンドに3つのシステイン反応性求電子基のうち一つを導入したプローブを用い、それぞれDMSOとの比較によって生細胞中で反応するターゲットタンパク質を同定する。また、各反応基を有するプローブ同士を直接比較定量し、それぞれの反応基がコバレント阻害剤のプロテオーム選択性にどう影響を及ぼすか明らかにする。
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Research Products
(5 results)